41:沈黙を破る家令。
安全面の考慮から、陛下と私は王城から持ってきていた軽食を食べ、騎士様や使用人たちには軽食ではありますが我が家で用意しました。交替で食べるよう伝えています。
夕方前にはなんとか室内の捜索現場を巡り、地下牢へと向かえました。
我が家には地下牢は三室しか無いので、数人ずつに分けて入れられています。
「おまたせして申し訳ないわね」
「「……」」
「お嬢様、これは一体何なのでしょうか? 旦那様はどのような指示を!? こんなことをして、後々どうなるかお分かりで?」
お父様付きの執事が怒りを露わにしています。
牢の鉄柵越しに凄まれても、無様なだけですわねと伝えると、執事がガイーンと音がするほどに柵を蹴りました。
「あら、育ちが知れましてよ?」
「ふざけるなよ……てめぇもラッセルも覚悟しとけよ……」
本当にお育ちが知れましたね。
「そんな短気だから、長男なのに子爵家を継げないんですわよ? 弟君の方が数百倍も知性的ですしね」
「あぁぁ? このメス――――」
「それから、お父様とメリダは斬首刑になりましたわ」
「「は……」」
ワーワーと叫びながら柵を蹴っていたお父様付きの執事がピタリと止まりました。自分の立場が相当危ういものになっていると気付いたようです。
この男と床に顔を伏せて座り込んでいるメリダ付きの執事はかなりの小者なのでどうでもいいのです。
問題は牢の奥で優雅に座っている家令二人と執事長。
この三人がスタンドアローンなのかが全く分かりません。それぞれがかなり狡猾で尻尾を出さないので。普段の様子ですと、それぞれが距離を置き仕事に徹していました。が、先日の元老院での出来事を考えると、実は……というのもありそうです。
さて、どうしようと考えていましたら、家令の一人であるグイドがスッと立ち上がり鉄柵に近付いてきました。
グイドは私が幼い頃から我が家に仕えてくれていました。ただ、あまりの自身のことは話してくれませんので、伯爵家の三男で今は五十代だということしか分かりません。
もう一人の家令――ヤノスとは上下関係にあり、何故か後から雇われた上に、三十代後半のヤノスの方が立場が上です。
「お嬢様、こんなことをして何になるのですか? あまりにも理不尽過ぎますね。旦那様と奥様を見捨てられたのですか? なんと酷いお方だ――――」
つらつらと並べ立てていく辛辣な言葉とは裏腹に、グイドが真面目な顔で柵越しに小さな紙をこっそり渡して来ました。
『この数年、情報を溜めて来ました。全てお話しします』
「あら、あの二人の下で働き続けていた貴方たちなら、わかるんじゃなくて? 自分たちの主人がどれほどの悪行に手を染めていたのか。それは貴方たちも知るところではなくて?」
グイドに応戦するふりをしつつ、陛下にそのメモを渡しました。
「ふっ……ニコレッタは私の妻になる。つまりは王妃だ。その王妃にそんな口を利くとはな。その男から話を聞こう。多少欠損が出たところで、問題はなかろう?」
「っ! 何をする! やめろ!」
グイドが抵抗する振りをし、陛下が魔王のような笑顔でグイドの胸ぐらを掴み引きずっていました。
二人とも、何気に演技派ですね。
陛下なんて、ニヤニヤし過ぎです。
――――ちょっと、楽しそう。
「チャンスをくださり、ありがとうございます」
少人数で話したいとのことで、グイドを連れてサロンに向かいました。
グイドにイスを勧めたのですが、床に跪き頭を深々と下げられてしまいました。
「この時を、ずっと待っていました。復讐を、果たしたかった――――」