40:暴かれた秘密。
◇◇◇◇◇
この年齢にもなって『宝物入れ』があるなんて。その中身なんて、バレたくなかったです。
だって、ちょっと気持ち悪いって思われてしまうかもしれない。いつからのが入ってたかなんて覚えてないもの。
一番下に入れている絵は、十七歳の時だったのは覚えています。まるで親子三人みたいで、嬉しかったから。フェルモ様とお話しする私を柔らかでいて愛おしそうな表情で見てくれているような絵だったから。
私の一生の宝物。
なのに――――。
「…………ニコレッタは、フェルモを愛していたのだな」
――――何でそうなるの!?
バレたくなかったけど、そんな勘違いはもっと嫌です。
恥ずかしくて、悔しくて、わけが分かりません。
二人きりになってもまだフェルモ様のことを仰います。フェルモ様なんて嫌いです! どちらかといえば、ですが。
「陛下の鈍感っ!」
怒りに任せて、メッセージカードを陛下に押し付けました。
陛下が大切なものなのだろう?なんて説教してきます。
大切ですよ! 馬鹿みたいに毎回毎回、陛下のサインが入ってれば招待状さえも『宝物入れ』に入れていました。
十五歳の誕生日、陛下にもらった鍵付きのボックスに。きっと陛下は覚えていないのでしょうけれど。
急に陛下が無言になられました。
押し付けたメッセージカードをじっと見ています。
さっきから溢れ出る涙のせいで、陛下のお顔がよく見えません。
「ニコレッタ」
陛下がゆっくりと近付いてきて、メッセージカードを『宝物入れ』にそっと入れてくださいました。
「大切なものが何か理解した。このような形で秘密を暴いてすまない……」
冷静にそう言われ、絶望の嵐が身体の中で暴れ狂います。
嫌われた。きっと気持ち悪いって思われた。
「ニコレッタ?」
ゆっくりと後退りしていましたら、陛下がずんずんと追いかけてきます。
「ニコレッタ!」
「……っ、や」
ガシリと腕を掴まれてしまい、逃げられません。嫌だと伝えるとムッとした表情になってしまわれました。
「それ以上いくな。後ろは窓だ」
気付いていませんでした。分かったので手を離してとお願いしましたが、陛下が無視します。
またぼたりと涙が落ち始めてしまいました。こんな風に泣くなんて、恥ずかしすぎます。
どうにか陛下から逃れたくて、腕にぐっと力を入れて引いたりしましたが、何の効果もありませんでした。
「ニコレッタ」
急に陛下の顔が近寄ってきて、ビクリとしながら目を瞑りましたら、下目蓋にぬるっとした感触。
パチッと目を開けると、そこには陛下の口とテラりと光る舌がありました。
――――え? ももももしかして?
「なっ、舐め!?」
「ん。しょっぱい」
陛下の口角がぐいっと上に上がり、なんとも言えない嗜虐的な笑みになられた瞬間、唇が塞がれて腰が抜けるほどの激しいキスをされました。蹂躙された……と言えそうなほどに。
「っ……あー、いかん。すまん」
床にへたり込んでしまった私の目の前に、しゃがんだ陛下が右手で頭を抱えています。
何がいけないのか、何を謝られているのか聞くと、ヒュッと息を飲まれてしまいました。
「…………今が夜なら良かった」
ボソリと呟かれたその言葉。先程の激しいキス。耳まで赤くなっていく陛下。
「ななななななっ」
「ハハハ! 馬鹿みたいな勘違いをしてすまないな」
「っ……はい」
もう一度、キスしたいと小さな声で言われました。今度は優しくするからと。
そんなの、『はい』しか言えないに決まってるじゃないですかっ!
二人で深呼吸して、部屋の外にいた文官様たちにお声掛けしました。私付きの侍女がにこにこしています。そしてササッと鏡台に連れて行かれ口紅と目元の化粧を軽く塗り直されてしまいました。
「うふふふ。お顔が真赤ですよ」
「っ、からかわないでちょうだいっ!」
小さな声で、連絡があったときは驚いたが、私が幸せそうで良かったと、他の人に聞こえないよう囁かれました。
「ありがとう。心配かけてごめんね」
「ほら、陛下がチラチラと窺われていますわ。笑顔で行かれてくださいね。ニコレッタ様の笑顔は皆が幸せになりますから」
「うん」
幼い頃から付いてくれている優しい侍女――マルタ。出来れば王城に連れて行きたいです。
後で陛下に相談してみましょう。