38:それぞれの部屋。
お父様の執務机の隠しスペースから出てきたお母様の肖像画を抱きしめました。懐かしいお母様の微笑みに勇気と怒りが溢れます。
肖像画や指輪を取っておいたということは、お母様を愛してはいたのでしょう。
ならばなぜメリダに落ちたの! ならばなぜお母様を殺したの!
あまりの自分勝手さと、いつも感じていた優柔不断さを思い出し、更にイライラが増します。
「…………本当に、人でなしです」
「あぁ。あまりにも自分勝手過ぎるな」
お父様の執務室を後にし、私室の方へと向かいました。
ギラギラしい飾りが多く目が痛いです。いつもはズバリと言われる陛下が「なんというか……すごい趣味だな」と言葉を濁していたのが面白くて、つい笑ってしまいました。
隣の主寝室、続き間のメリダの私室へと、それぞれの部屋の騎士様たちになにか見つけたかの確認をしつつ移動します。
「更に上がいるとは……」
メリダの部屋を見回して、陛下が衝撃を受けられていました。
そして、実は私も衝撃を受けています。お母様の部屋がこんなにも悪趣味な部屋に変わっているなどと思いもよりませんでした。
再婚されてから、この部屋に訪れるなどしませんでしたから。
「この部屋に限っては、食品や茶っ葉など、口に入れられそうなものなど全て回収をしろ」
「「はっ!」」
何を使ってどうしたのかなど、いまだ全容がわからないので、取り扱いにも気をつけてほしいと、加えて伝えました。
暫くの間、お父様たちの部屋を色々と捜索したあと、ヴィオラの部屋の案内を任せていた侍女から呼ばれました。
「どうしたの?」
「お探しされていたものが出てきました」
侍女に指差されたものは、私の部屋からなくなっていた宝石類。
「ふぅ……やはりここにあるわよねぇ」
「はい。これだけわかり易く保管してありますので、ヴィオラ様付きの侍女も間違いなくグルですね」
ヴィオラの部屋に私の手の者が入れば、不要な叱責を受けてしまうこと、直接私が行けば、不要な軋轢が生じてしまう可能性があり、今までは捜索していませんでした。
なによりも、私がそこまで宝石類に執着できなかった、というのも大きな要因ではありますが。
ヴィオラの部屋も、とにかく装飾品や宝石類ばかり。
本などはほぼありませんでした。あっても子供向けの恋物語の本や絵本ばかり。
ただ、マナーの本は何冊かあり、どれもかなり読み込んだような形跡がありました。あの子はあの子なりの努力もしていたのでしょう。
「ニコレッタ様、日記はどうされますか?」
「……読むのは趣味が悪い気もしますが、情報収集のためにはやむを得ないのでしょうね。回収しておいてちょうだい」
「はい!」
……日記なんて、書いていたのね。
ヴィオラの部屋を後にし、今度は私の部屋に移動しました。
フロアの造りと部屋の割り当て的に、そうなっていますから。
「ここがニコレッタの部屋か」
陛下がソワソワとした雰囲気で部屋を見回していました。
特に散らかしてもいませんし、変なものは置いていなかったと思うのですが。
ふと、レターデスクの上に置いてあった鍵付きの箱に、文官様が手を伸ばしているのを視界の端で捉えてしまいました。
「待って! それは駄目――――」
つい。本能的に。
駆け寄って、取り上げてしまいました。
「ニコレッタ?」
「あっ…………」
一瞬にして、部屋に不穏な空気が充満して行きます。
――――ち、違うの。