37:隠されていたもの。
ゴズメルは面白いほどにペラペラと話し始めました。
メリダが隣国から手に入れた薬であること、調合はメリダがやっていたこと、ヴィオラが王城に行く度に作らされていたこと。
「本来はかなり強い薬らしいのですが、焼くと効果が薄まるそうで、焼き菓子を作るようにと命じられていました。じわじわと狂わせて行くのだと笑われていました」
「そう……ありがとう」
右手を上げてもう良いと合図すると、騎士様二人がゴズメルの両腕を掴み、大ホールから出ていきました。その際に陛下が、後で詳しく聞きたいことがあるから見張りを付けて城の牢に入れておけ、と命じていました。
「あの女が調合をしていたとなると、厄介だな。薬自体はたぶんケネスが入手出来るだろうが」
ケネス様、入手出来ちゃうんですね。
この件については追々実験などもしつつ、薬の効果を解明していこうとなりました。
「さて、私たちも捜索に加わるか」
「はい」
屋敷内を移動し、先ずはお父様の執務室へと向かいました。
既に捜索は始まっており、文官様たちが見つけ出した様々な書類が執務机に置かれていました。
陛下はそれらをパラパラと見つつ、ボソリと一言。
「字が…………汚い」
「っ! すみません!」
まさかそこに突っ込まれるとは思ってもみませんでした。たしかにお父様の字はとても個性的です。
もう見慣れてしまっていて、私は読解には慣れましたが。
「今まで提出されたり、送られてきた手紙はそうは感じなかったような気がするんだが? 使い分けられるものなのか?」
「……人様に見られるものに関しては、ずっと代筆させていました」
「「……あぁ」」
基本は執事になどにさせていましたが、あまり見られてはいけないものなどは私かメリダがやっていました。
ここ最近はメリダがほとんどやっていたようですが。
「ふむ……目が痛い」
陛下はそう言うと書類に目を通すのを諦めました。
執務机の右引き出しの最上段を何度か開け閉めし、文官様に机の中は調べたのか確認をしていました。
「はい。最下段の隠し底の中からはこちらの書類が出てきております」
「書類…………解読は後だな。キャビネット奥の仕掛けは?」
「奥の仕掛け、ですか?」
執務室で捜索していた面々と私、陛下以外が皆きょとんとなりました。陛下が片眉を上げて「ふむ」と呟くと、私以外は目を瞑るように言われました。
「ニコレッタ」
陛下が執務机の右脚の部分を指差し、右回しするようにとジェスチャーで伝えて来られました。良く分からないものの、伝えられたとおりに机の脚を握り反時計回りに力を入れると、カチッと数センチ動きました。
――――ガコッ。
「え?」
なにかの仕掛けが動くような音が聞こえたときには、執務机のキャビネット部分の奥というか側面の板が十五センチ幅でパカリと外れていました。
「目を開けて良い」
「なっ!? 引き出しの奥にはスペースが?」
この執務机は、引き出し全段の奥にスペースが残されていて、そこが隠しスペースになっているとの事でした。
「この机を制作したのは、カラクリが得意な匠でね。老齢の貴族たちに人気だ。既にこの世にいないから、余計にな」
様々な仕掛けがあるそうですが、この机はキャビネット奥が本当の隠しスペースとの事でした。
隠し底はわざとバレバレに作っていて、そっちに気を取らせて他の隠し部分から気を逸らせるためなのだとか。
隠し底にも本気で隠しておきたそうな書類を入れていたお父様に関しては皆様が無言にはなられていましたが。
「あぁ、でもこちらにもしっかりと書類が入っていますね」
「おや? これは小さな肖像画と指輪ですね」
取り出されたのは、三十センチほどの肖像画と見覚えのある金色のペアリング。
「お母様…………」
それは、ブルネットの髪を美しい編み込みでまとめ、柔らかな笑顔を浮かべたお母様の肖像画でした。
メリダが来てすぐにお母様の全てが処分されたので、何も残っていないと思っていました。
お父様、取っておいたのですか…………。結婚指輪も。
「…………あぁ。ニコレッタは夫人によく似ているな」
「っ、はい。もらっても、良いでしょうか?」
陛下が文官様から受け取り、そっと私に手渡して下さいました。
ギュッと抱きしめます。お母様はもう抱きしめてはくださいませんが、久しぶりにお顔を見られたおかげで、また頑張れそうです。
――――空から見ていてくださいね。
何が何でも、償わせて見せますから。