36:優しい、ニコレッタ。
皆には騎士様や文官様たちに一人ずつついて、屋敷を案内するよう指示しました。
その場に残ったのは真っ青な顔の五人のメイドと陛下や私付きの使用人たち。
加担したと名乗り出てくれたメイドは、ハウスが二人、パーラーが二人、キッチンが一人でした。
取り敢えず座りなさいとテーブルを指し、そこに一緒に座りました。陛下も横に座られましたが、国王なのに同じテーブルで良かったのでしょうか? 気にせず進めるようにと仰るので、気にせずに進めますが。
「貴方たちは、ハウスメイドのジュスリーンとラーラね。そっちがパーラーメイドのソニアとマリーヌで、キッチンメイドのリジーね」
「「は、はいっ」」
各々が名前を憶えてもらっていたのかと驚いていましたが、我が家で雇っている使用人ですもの、覚えていなくてどうするのかしら。
それぞれに話を聞いていると、ハウスとパーラーの四人は基本的に私への嫌がらせをメリダやヴィオラに命令されていただけでしたので不問とします。内容も気にならない程度でしたし。
部屋の掃除の際に宝石を盗んでこい。ですとか、最後に配膳しろ。とかでしたから。
キッチンは……なるほどそんなことがあったのねと感心するばかりでした。
「ラッセル、副料理長を呼んできてちょうだい」
「リジー、あなたが言い出さなかったら、もっと大変なことになっていたわ。ありがとうね。副料理長が来る前に隠れてなさい」
私付きの侍女に頼み、彼女の部屋に匿ってもらうことにしました。無理を言ってごめんねと謝ると、逆に謝られてしまいました。自分達が不甲斐ないばかりにと。
「ありがとう。私ね、貴女たちのことが大好きなのよ」
「「ニコレッタ様っ!」」
ただ思ったことを言っただけなのに、何故か周囲にいた侍女たちが涙ぐんでいました。ちょっとしたカオスです。
「あの……お呼びとのことで。このような格好で申し訳ございません」
四十代の副料理長――ゴズメルが挙動不審になりながら大ホールに来ました。
「ゴズメル副料理長、ちょっと聞きたいことがあるの」
「は、はぁ」
「貴方、メリダ義母様から王太子殿下に差し入れるお菓子を作るように指示されていたのよね?」
「――――なんのことでしょう? 菓子ならば、菓子担当がいますが?」
「貴方、副料理長をやる前は長いあいだ菓子担当をしていたわよね?」
「……はい」
キッチンメイドであるリジーは、ステップアップのため、よく夜中に調理の練習をしていたとのこと。そんなときに、副料理長が夜中によくお菓子を作っているのを見かけていたそうです。副料理長に何をしているのかと聞くと、メリダから指示されているものだと言っていたそうです。
そして、練習するのならちょうど良いから菓子作りを手伝え、と言われて手伝っていたそう。
その際に言われたのが、味見は絶対にしてはいけないこと、手についたものを舐めてもいけないこと、これはとても高貴な身分の者しか食べてはいけないものだから、下々の者が味を知ることは許さない、だったそうです。
そんなもの、この世にありません。……たぶん。
「私は普通に普通のものしか食べていないがな?」
「ですわよね」
まぁ、王城で出されるものは高級な部類には入るのでしょうが、陛下たちが普段に食べられているものは、なんというか普通です。
朝食などは特に。普通のスクランブルエッグとか、テーブルロールとか、本当に普通なのです。
「…………私は、そう説明され、内密にと言われていたもので。リジーにもそう言っただけです」
「雇い主に内密にと言われたのに、他人に手伝わせたのね? へぇ?」
「っ……!」
副料理長が目線をあちらこちらに移動させていました。
――――逃しませんよ?
「夜中に内密で作るようにと言われている王太子殿下に差し入れるお菓子、って何かしらね? 驚いたことにね、王太子殿下に何かしらの毒物が投与されていることが発覚したのよね。その共犯者はヴィオラなのだけど、主犯は貴方なのかしら? メリダなのかしら?」
テーブルに両肘を突き、にこりと微笑みました。
「私ね、今回を機に公爵家の中を掃除したいの。ただし、情状酌量はしてあげたいのよね。素直に吐いてくれれば、死刑に対して異議は唱えてあげようと思っているの」
「――――っ!」
「さぁ、何を作らされていたのか、吐いてちょうだいね?」
私は優しいから、『異議は』唱えてあげるわ。たとえ、結果は変わらなくとも。