33:いつか。
教会を出て、王城に戻っている途中、庭園に差し掛かり足が止まりました。
王城には庭園が何ヶ所かありますが、ここはその内のひとつで、王族のみが入れる庭園です。
そういえば先日、ヴィオラがフェルモ様の手を引いて奥に入って行ったのを見かけましたっけ。
「どうした?」
エスコートしていただいていたのに、足を止めてしまっていたので、陛下が顔を覗き込んで来られました。
「あっ、すみません。先日フェルモ様とヴィオラが入って行ったのを見たもので…………感傷のようなものでしょうか……」
「あの馬鹿は、ヴィオラを入れていたのか。ニコレッタならまだしも……」
王族専用なのです。王族しか入れないのが当たり前。
ですが、ヴィオラは良く入っていたのを見かけていましたので、そこまで気にしていませんでした。
「申請を出して、許可を得れば門は通しているが……侍女、騎士たちもグルか?」
「どうでしょうか。王太子であったフェルモ様が良いといえば、従わざるを得ないかとも」
「…………ん。ニコレッタは厳しいな。たしかにその通りだな。非はこちらの体制だろう」
批判をしたかったわけではなかったのですが、結果的にはそう伝わってしまう言葉を選んだのは私ですね。
陛下が今回を機に、色々なものを見直すと力強く宣言されました。
そしててっきり陛下の執務室へと向かわれるのだと思ったのですが、庭園の方へとぐんぐん進んでいかれます。
「陛下?」
「……許可をしてサインするのは私だから」
「陛下」
「…………後でちゃんと書く」
「嫌です」
それをしてしまったら、私はヴィオラやフェルモ様と一緒になってしまいますから。
堂々と入りたいです。陛下と共に。
「ん」
小さな声ですまないと謝られ、今度こそ執務室へと向かいました。
「はぁ? そんなもん堂々と入っちまえよぉ。婚約者だろうが!」
ケネス様が、陛下の執務室のソファに寝そべった状態で、先程あった話を聞いて、出た感想がこれでした。
陛下は苦笑いで私の意を汲むと仰って下さいました。
「それで、ケネスは心当たりはないか?」
「うーん…………無くはないが……そんなに即効性はなかったはずだし、あそこまで壊れるとは思えない」
「取り敢えず、屋敷内は捜索することになるが、いいな?」
じっと陛下に見つめられ、こくりと頷いて返事しました。私の部屋も全て捜索して欲しいです。あの三人です。どこに何を隠しているかわからない。
「ん。このあと隊を編成し公爵家に向かう。すまないが屋敷の案内を頼むぞニコレッタ」
「はい。承知しました」
「じゃ、俺はあの二人でも突いてみるかなぁ」
ケネス様は口の端を上げて楽しそうに笑いながら、ソファから飛び起きられました。陛下が程々になと仰ると右手を上げて「へいへい」と言いながら執務室を出ていってしまわれました。
お返事がとても軽かったのですが、大丈夫なのでしょうか?
「まぁ、そこらへんは信用のおける男だ。安心してくれ」
「ケネス様とも仲がよろしいですよね。まるで兄弟みたいです」
「はははっ。叔父と甥だが、年齢が近いからだろうな」
あとは、ケネス様がケネス様だから、というちょっと不思議な理由を挙げられました。
良く分からなくて首を傾げていましたら、陛下が楽しそうに笑いだされました。
「あいつは本当に、昔から王位などに興味がなくてね。とにかく外を見たい。遊びたい。商売したい。王族などミリも楽しくない! と堂々と父に言い張っていたからね。とても気が合った」
なぜそこで気が合うのかと更に不思議に思っていましたら、陛下が柔らかな微笑みを零されました。そして「私も、嫌いだからね。王族」と呟かれたあと、我が家に行く騎士の編成に入られました。
――――王族が、嫌い?
どうやら続きは話してはくださらないようです。でも、呟きでも、教えてくださったということは、いつか話してくださる日が来るのでしょうか?