3:膨れゆく不信感。
それから、幾度となく義妹を王城で見かける事が増えました。しかも、必ず近くに王太子殿下がいるのです。
お父様になぜ義妹が王城にいるのかを聞くと、王太子殿下の侍女見習いに選ばれたのだとか言い出しました。
「侍女見習い?」
普通は王城敷地内の使用人棟に住み込むのですが、御学友兼任の侍女という扱いで気が向いた時に王城に通う方針なのだとか、色々と『特例で』と言われました。
普通、御学友は同性から選ばれるはず。地位が高く有能な貴族子息などが。
特例とは?
しかも気が向いた時に通う?
侍女と御学友は両立できるもの?
そもそも、殿下からもお父様からも何も報告をされていませんでしたが?
この頃から、様々な不信感が募り初めていました。
お父様から侍女見習いと御学友の話を聞いた翌週に、王太子殿下から事の成り行きをふわりと説明されました。
ちょっと前から、友達なんだ、と。
――――友達?
「ニコレッタ……怒ってる?」
「いいえ、殿下。ですが、ヴィオラは未婚の令嬢ですので、密室や二人きりでお会いになる事は、あまり望ましくありません」
「……そう、だよね。うん」
王太子殿下は良くも悪くもとても幼く見えます。幼顔の残る年齢という事もあるのでしょうが、精神的にもまだまだ未熟さが感じられるからかもしれません。
「気を付けるね」
「はい。ありがとう存じます」
こういったふうに素直に受け取られるところは美徳でもあるのでしょうが、少しだけ頼りないといった印象もあります。
「ニコレッタ、ここにいたか」
「国王陛下、どうかされましたか?」
「あぁ、フェルモの件で少し話がしたい」
王太子殿下とお茶をした帰りに、王城内で国王陛下に呼び止められました。王太子殿下の事で話したいと言われ、陛下の執務室にお邪魔すると、執務机の前ではなく休憩用に使われているソファの方に座るよう言われました。
ローテーブルを挟み、向い合せで座っていると、侍女がティーカップと淡桃色と乳白色が入り混じったようなカットフルーツを持ってきました。
「先日隣国の使者が持ってきた白桃だ。ニコレッタの好きな味だったぞ」
「まぁ! ありがとう存じます――――んっ!」
瑞々しい白桃は、柔らかな甘さを口の中に残したまま蕩けるように消えていきました。
「ははは。好きだったろう?」
「っ、はい。とても美味しゅうございます」
陛下がふわりと笑いながら優雅に足を組み直し、カップに口をつけられる様は、恐ろしいほどの色気を感じます。
王太子殿下の件で話したいと言われたのですが、何故か普通にお茶をしています。
暫くの間、隣国の使者とのやり取りや今後の政策などから、どこそこの伯爵のとこで作られている紅茶が今年は当たりだとかのお話をしました。
「――――最近はフェルモの周りをニコレッタの妹がうろちょろとしているが?」
「っ! ……義妹がお騒がせして申し訳ございません」
「いや。ニコレッタは承知しているのかと思ってな」
急に話題が方向転換し、本題に入られてしまい、少し焦ってしまいました。
承知するも何も、侍女見習い兼御学友と認められてしまっているので、私にはなんの権限もありません。王太子殿下も年齢の近い義妹と話すのは楽しいと笑顔で仰っていますし、止めようもありません。
「ニコレッタの本心は?」
「…………今のが本心ですが?」
「ふむ」
横に流した金色のゆるくウエーブした髪を手ぐしで軽くかき混ぜながら、国王陛下が何かを考えられているようでした。
何か拙いことでも言ってしまったのかと、お茶を飲む手を止めたのですが、陛下がヘーゼル色の瞳を細めてにこりと微笑まれ、気にせず桃を食べるようにと仰いました。
「ニコレッタは、いつも背筋を伸ばして我慢ばかりだな。たまには緩めなさい」
「ひょぉでしょうか?」
白桃をもぐもぐと食べながら、陛下と話している今など、かなり気を緩めすぎているなぁと思うのですが。
咀嚼途中で返事してしまいましたし。
陛下は柔らかくフッと笑いながら、またカップに口をつけられました。