23:終焉、第二幕
ボソボソと呟かれている陛下とケネス様の会話から推測するに、教皇様のご機嫌がナナメになると、女神様の像から女神様の神力が漏れ出すようでした。
今まで私は一度も見たことが無かったですし、女神様からの返信で光るというのも今日知ったばかりです。
私の愛し子の精神を乱すなこんちくしょうが!とか言ってるんだよ、とケネス様が解説してくださったのですが……その口調で合っているんでしょうか?
「どうすんのかね。人前で光らせちゃって」
参列者の方々からざわめきが聞こえ始めました。それはそうでしょう、女神様の像が輝くなど、誰もが聞いたことがありませんから。
「おやおや、おやおやおや…………進行がズレてしまいましたねぇ。折角、誓いのキスに合わせて光らせようと思っていたのに」
教皇様が残念そうに仰り、パンパンと手を叩きました。
「はいはい、鎮まりなさい。全くもう」
「「ブフッ」」
両隣から吹き出す声。陛下もケネス様も正面を向かれて真顔のままなのですが、絶対にこの二人が吹き出しましたよね?
チラリと視線を向けますが完全に無視です。酷いです。
「ほら、ちゃちゃっとキスして、ピカピカがそろそろ終わりますよー」
「っ、何なのよもぉっ! フェルモ様! 早くっ!」
義妹がズタンと右足で地団駄を踏んでいました。地団駄など、貴族であれば幼子でもなかなかしない気がするのですが……まぁ、あの義妹なので、するんでしょうね。
フェルモ様が泣きそうな顔で、義妹に無言でツンとキスしていました。
義妹はあんな感じの誓いのキスで良いのでしょうか? 物凄く晴れやかな顔をしていますが。どこかに幸せでも見出したのでしょうか?
不思議でたまりません。
「ふぅ。さて、晴れて二人は夫婦になったな」
陛下がずっと瞑り続けていた目蓋を押し上げると、スッと立ち上がり祭壇の方へと歩いて行かれました。
少しざわついていた内陣がシンと静まり、陛下の足音のみがカツーンと響きます。
「急な知らせにも関わらず、本日はよくこの式典に参加してくれた」
陛下がスッと右手を顔の横に上げると、壁際に控えていた騎士たちが素早く動き出し、フェルモ様、義妹、お父様、義母を拘束すると、内陣側を向かせ祭壇の前に跪かせました。
四人仲良く横並び。表情は三者三様。とにかく義母の視線が凄いです。
陛下が四人の前に立ち、参列者たちに声をかけ続けます。
「知らせていた通り、今日、王族メンバーが大きく変わる」
陛下がゆったりと歩き、王太子殿下の横に立つと、ポンと頭の上に手を乗せました。この瞬間の王太子殿下の表情は本当に哀れなものでした。
唇の中央を引き上げ顎に皺を寄せ、今にも泣きそうな顔から、『パァァァ』っと聞こえてきそうな程に希望に満ちた口元になっていました。そんな奇跡的な展開など、そうそうあるはずもないのに。
「王太子であるフェルモは、この時点を以て廃嫡とする」
「っ! ちちう――――」
「お前に発言の許可は出していない」
「「……」」
陛下のその一言で、一瞬騒がしくなりだした場がまた静かになりました。
「次に王太子妃ヴィオラ。この娘も元王太子と同じ扱いとし、この時を以て平民とする」
「なっ、何なのよこの茶番は! こんな馬鹿なことあってたまるものですか! ニコレッタ! これ、アンタの差し金でしょ!? このアバズレ年増っ!」
義妹の耳障りな甲高い叫び声。
それを誰も止めなかった。
そして陛下はニヤリと笑って私に向かって右手を差し出してきました。掌を上に向けて。
つまり、陛下のいる場所に来いということ。隣に立てということ。
想定内。
絶対に義妹なら叫び倒して罵倒してくれると思っていました。
陛下が会議の場で、全力で叩きのめし存在感を知らしめろ。自由に羽ばたけ。と言ってくださいました。
ふるり。
全身が震えます。
これは高揚からくるもの。
ここからが、私の戦場です―――――。