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19/61

19:馬鹿の来訪。

 



 しばらくの間、陛下と抱きしめあっていると、部屋の扉がノックされました。


『陛下、王太子殿下がお見えです』


 扉の外からくぐもった男性の声がしました。 

 殿下が来られたのだと。


「分かった。少し待て」


 陛下がバサバサと漆黒のマントとジャケットを脱ぎ、持っていてくれと渡して来られました。

 寝室の方に行くように言われ、慌てつつも足音を立てないように走ります。まぁ、とてもふかふかとした絨毯が敷かれているので、そうそう足音は立たないかとは思いますが。


「すまない。聞こえないとは思うが、もし何か聞こえても、我慢してくれ」

「はい」


 陛下がすまなそうな困り眉でそう仰って、口先を触れさせるだけのバードキスをして、パタリとドアを閉められました。




 ✧✧✧✧✧




 部屋でニコレッタと心を通わせていたのだが、フェルモが来たと外に控えさせていた騎士に言われた。宰相とケネス以外は誰も通すなと言っていたが。まあ、これは仕方がないか。


 とりあえずマントとジャケットはニコレッタに預けた。あれらがなければ式典服が葬儀用だとは気付かんだろう。


「父上っ! いつ部屋に戻ったんですか!? ずっと探していたのにっ。ニコレッタが城内から消えたんだ」

「ほう?」

「あ、あのさ、昨晩のこと――――」


 一応、言い訳でも聞いてみるか? 間違いなく、殴りたくはなるだろうな。


「昨晩がどうした? 何かあったのか?」

「あの……ヴィオラに誘惑されて」

「あぁ、そのことか。聞いている」

「――――え? 何で知ってるの?」


 はぁ。やはり、頭が悪い。

  

「城内の出来事は直ぐに耳に入る。お前のところに宰相補佐が来ただろうが」

「あ……うん。あ、そうか。父上の指示?」


 私が指示しなければ、馬鹿と尻軽の結婚式など誰が許可すると思っているんだ!? 息子はここまで馬鹿だったのか…………。

 怒鳴りつけたい衝動をグッと堪える。


「ヴィオラ嬢にはニコレッタのドレスで申し訳ないが、と伝えて採寸と簡単なデザインの変更をさせている」

「え、やっぱりヴィオラと結婚しなきゃなの? ニコレッタはどこ?」

「…………」


 息子が何を言っているのか理解が出来ない。ヴィオラと()()()()()()? あれだけのことをやらかしておいて、まさかニコレッタに結婚してもらえるとでも思っているのか?


「ニコレッタは薹が立ちすぎていたからな、気持ちは分かる。ヴィオラ嬢と関係を持ったのなら、もうどうしょうもない。そちらに切り替えろ。招待客には式の遅延と変更を伝えている」


 馬鹿のせいで、言いたくもない言葉を言わねばならない。どうか、寝室に聞こえないでいてくれ。


「え…………ニコレッタはどこ?」

「フェルモよ、ニコレッタと話して何になる? 何を話したい?」

「その、私は、嫌われたのかな?って」

「…………」


 絶句。

 そうとしか言いようのないほどに、言葉が出てこない。

 本当に理解不能だ。頭が痛い。

 

「父上、ニコレッタはどこに?」

「ニコレッタはお前とはもう無理だと言っていた。充分な謝罪と補償をし、希望に沿った新たな身分と住処を用意して和解している」


 嘘ではない。

 しっかりと謝ったし、希望通りの断罪をする。王妃という新たな身分で、王妃の部屋に住むこととなる。

 何も嘘は言っていない。


「そんな……」

「お前が招いたことだ。ヴィオラ嬢と結婚し、責任をとれ」

「……はい」


 息子が驚くほどに悲しそうな顔をしている。が、私は怒りしか感じない。

 さっきまで感じていた、僅かに残っていた愛情のようなものが消え去るのが分かる。これはもう駄目だ、切り捨てろと本能が叫ぶ。


 聞いてはいけないと分かっているのに――――。


「――――フェルモ、お前はニコレッタを愛していたのか?」

「……わかんない。けど、ニコレッタはずっと私といてくれるって思ってたから。何であんなに怒ったのかな……」

「っ――――」


 ――――我慢しろ!


 今はまだ、我慢すべきだ。

 沸き上がる怒りで右手が震える。フェルモに見えないよう体の後ろに隠し、左手でフェルモの背中をそっと押した。


「女心は難しいものだな」


 部屋の外に誘導し、式の準備をしろと伝えて部屋に戻るよう促した。

 これで大丈夫だろう。




 深呼吸し、寝室のドアノブに手を掛ける。

 どうか先程の会話は聞こえないでいてくれと願いながら。


 ゆっくりと開いた扉の向こうには、薄暗闇で穏やかな寝顔をしたニコレッタがいた。

 一人掛けのソファで靴を脱ぎ、膝を折り曲げて座り、私のマントを毛布のように体に掛けて、うつらうつらと船を漕いでいる。

 ジャケットは、良く見えないが、ソファの背に掛けてあるものだろ。


 良かった、聞こえてない。あんな会話は聞こえない方がいい。

 この二〇年近く、ニコレッタは頑張り続けた、耐え続けた。

 これからは、ずっと笑顔でいさせてやりたい。


 ――――心から笑うニコレッタが見たい。




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― 新着の感想 ―
[一言] あー、皇子は完全にニコレッタを母親だと思ってるんだな…。母親とは寝れませんからね…。欲情したこともないんでしょうし、他人だと思ったこともないのかも。自分と結婚する人=自分と一生一緒にいてくれ…
[一言] 女性としてではなく、全てを許してくれる母親みたいなものだったのかな?うーん、王太子子どものまま過ぎるっ( ¯ ¯ )
[一言] えー?わざわざ、とうが立ちすぎていたとか言う必要ある?聞かせたくないなら言わなきゃいいのに。 そんなこと言わなくても、勝手にバカ王子はペラペラ自分のことを話しそうだし。
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