14:教皇様と女神様。
教皇様に昨晩あったことの詳細、そして感じたことを話すと、ぎゅむむむっと抱き締められました。
「辛かったね。君はいつも感情を仕舞い込んでしまうから心配だよ。だから悲しい色がすこし出ているんだね。でも、嬉しい事もあったから、まだ透明が沢山残ってるんだね。やっぱり君は強いねぇ」
教皇様のお言葉に胸が熱くなりました。
また、泣いてしまいそうです。弱くなりたくない。でも温かい言葉は胸に刺さってしまいます。
「エロジジイ……」
ボソリと聞こえた低い声にハッとなり辺りを見回しましたが、国王陛下しかいませんでした。
今の声は気の所為でしょうか?
「さて、話を戻そうか――――」
今回の計画を聞き、教皇様は少しだけ悩む素振りをされたのですが、物凄く明るい笑顔で「良いんじゃない? やっちゃおう!」と両手で拳を作り、戦闘ポーズを取られました。
思っていたよりも軽いのですが?
陛下たち、厳しいだろうとか仰っていませんでしたっけ?
「おい、女神には聞かなくて良いのか?」
陛下が呆れ顔でそう言うと、教皇様が笑顔でもう聞いたと答えられました。が、意味がわかりません。
もしや、女神様と会話が出来るとか?
「あの、女神様のお声が聞こえるのですか?」
「んー? あ、そうか。ニコレッタ嬢は知らないのか。女神様はねぇ、あれをピカピカさせて来るんだよねぇ。眩しい眩しい」
教皇様が祈りを捧げながら話しかけると、教会の中にある女神様の銅像からオーラを出されるそうです。
「銅像から……オーラ」
基本的に教皇様の一番そばにある銅像が輝くそうなのですが、聖堂内だと主祭壇にある大きな女神像が激的な光を放つそうで、目が痛いとのことでした。
今は教皇様の私室なので、小さな女神像がピカピカしているだけだそうです。
「いつの間に祈ったんだ……」
「んー? 『女神様ー、ちょっとやりたいことあるんですけどねー』って心の中でだよ?」
思っていたよりも、物凄く雑に話しかけていらっしゃいました。
そして、陛下もそれは流石に知らなかったようで、ちょっと、というか本気で引いています。
「まぁ、いいならいいが。ちなみに奴らのオーラは見たことあるか?」
「嫌だよ。目が潰れる予感しかしないものは見ない主義だ」
「だろうな……」
教皇様が、誰だって道端に落ちている犬猫の糞尿や、誰かが流し忘れたトイレの中をじっくりと見たいとは思わないだろう? と仰いました。確かにそれはそうですね。見たくありませんね。
「あ、でも王太子殿下の色は常に確認はしているけどね。腐っても王族だからね」
――――腐っても。
「あぁ。また変わったのか?」
「うーん。定着しちゃったみたいだね」
「…………そうか」
王太子殿下は半分が無色で、半分が水色だったそうなのですが、思春期に入り、無色の部分がどんどんと茶色く濁り始めたそうです。
幼い子どもは無色のが多く、自身を知り、過去や未来の行いからオーラにどんどんと色が定着していくそうです。
陛下は生まれた瞬間から金色に輝いていたそうで、稀にそういう方もいるのだとか。
「もしかして……未熟だと、透明なのですか?」
「そういうわけでもないのだけどね。殿下の無色と君の透明は意味合いが違うからね。説明が難しくてね。ごめんね」
教皇様がよしよしと頭を撫でてくださいました。やはりとても優しい方です。
陛下もケネス様もなぜあんなにも警戒されていたのでしょうか?
「さて、私はそろそろ『式』の準備をしようかねぇ。楽しみだねぇ。嫌だけど……物凄く、ものっっっっっ凄く嫌だけど、オーラは見てあげるよ。参列者もね。裏切り者って、同じような色してるからね」
「ん、助かる」
「ありがとう存じます、教皇様」
教皇様が柔らかく微笑まれ、私のためだからと言われました。本当に優しいお方です。
「チッ、たらしが」
またとても低い声がどこからか聞こえてきました。きょろきょろと辺りを見回しても、陛下以外誰もいません。
――――まさか、ね?