10:終焉を彩る元老院。
王城にはいくつかの会議室があります。
その中でも国の評議会員――国政に関わる人々の一部しか知られていない、特別会議室というものがあるそうなのですが、今回使う会議室がそこなのだと言われました。
「ここだ」
連れてこられたのは、王城の中でも王族のみが活用出来る区画の小さなサロン。そこに入り、隣の使用人たちの控室であろう扉を開きました。
「お待ちしておりました」
そこには宰相閣下と帯剣した騎士様が二名がいらっしゃいました。
国王陛下はこくりと頷き、更に奥の扉に入っていかれます。宰相閣下が陛下に手を引かれた私を見て、にこりと笑い掛けてくださいましたが、目が笑っていませんでした。
いつでも好々爺のような宰相閣下ですが、目の奥に怒りの炎が見えたような気がします。
奥の扉の先は、部屋の中心に二十人ほどが座れそうな長方形の大きなテーブルがありました。
そしてこの部屋に集まっていた十名弱の方々は、昔から見覚えのある方ばかり。国王陛下の叔父である先王の弟――ケネス様、この国でトップクラスの財を成している侯爵家の先代、我が家を含め六ある公爵家の内の二家など錚々たる顔ぶれでした。
「緊急招集に応じてくれて助かる」
陛下が左手を上げ、軽く挨拶して席に着きました。
各々が一席ずつ開けて座っており、私は陛下と宰相閣下の間に座るよう言われました。
「なぜここにレオパルディ公爵令嬢が?」
そう声を上げたのは、陛下の叔父であるケネス様。王位継承権は放棄されており、諸外国を旅されては様々な珍しいものを輸入することに心力を注いでいる方です。
「あぁ、願いかなってね」
「は? なにやらかしてんだ」
そして、陛下とは八歳しか離れておらず、とても仲の良い関係だったと記憶しています。
昨晩の晩餐会でも良く話されていましたから。
「ニコレッタ、ここに集まっているのは『元老院』王の相談役たちだと思ってくれたらいい」
元老院、存在は知らされているもののメンバーは完全なる非公開の機関。それが、目の前にいらっしゃる方々。
中には陛下とはよく意見をぶつけられている方もいらっしゃったのですが、陛下が気軽に話しかけ笑われているので、もしかしたら表向きと裏向きの何かがあるのかもしれません。
「さて。まぁ軽い罵詈雑言は受け付けるが、時間がない。サクサク進めるぞ」
罵詈雑言、受け付けるのですね。
ケネス様が私とは反対側の隣で大笑いされています。
「「なっ……」」
「「とうとうか」」
昨晩の王太子殿下と義妹の事のあらましを聞いた面々は、驚愕と納得と落胆、そんな感情でした。
そして、私たちのことも。思ったよりもあけすけに話されてしまい、頬が熱を持ってしまいました。
「お前も息子も猿か」
「否定はせん。欲しいものが眼の前まできたのなら、手に入れる主義だ」
ケネス様の辛辣な一言と陛下の返事に全員が大笑いしていました。
「結婚式はどうされるので?」
「それだが――――」
各国の王や使者、国民たちには王太子が急病になったと知らせ、結婚式は中止に。
王や使者はすぐさま追い返すことも出来ないので、しばらく国内の有名所を案内したあと、ケネス様のお屋敷に招待し、謝罪と謝礼の品の争奪戦ゲームでも開催しろ、財源はとりあえず陛下の私財から。後々我が家から取り戻すので使いまくれ。などと少し耳を疑ってしまう提案を出されました。
我が家から取り戻すのには賛成なのですが、『争奪戦ゲーム』?
そして、王太子殿下と我が家のあの三人には内密にしておき、結婚式はそのまま敢行。
事情を知り尽くしている参加者の前で盛大に色んな意味で祝い、式の最後にめでたく捕縛。
――――捕縛!?
国内の有力貴族たちのみ事前に変更内容を通達し、未来が大きく変わる瞬間を見逃すなと参加を促す、とのことでした。
ものは言いようなのですね。
「待てよ!」
ケネス様がガタリと立ち上がられ、ダンッと机を叩かれました。それはそうでしょう。ケネス様の負担が大きすぎます。
「そんなんやってたら、俺がアホの結婚式の方に参加できないじゃねぇか!」
…………違いました。
普通に今を楽しまれていました。
そして陛下はケネス様のそのお言葉に面倒臭そうに溜め息を吐かれました。
「勝手に参加すればいいだろ。そっちはバルドとかに――――」
「嫌です」
急に名前を呼ばれた宰相閣下が被せながらに拒否しました。王の言葉を途中で遮るのは、わりと不敬に当たるというのが常識なのですが、元老院では王の言葉を遮っても良いようです。
勢いよく断られた陛下が「えーっ」と言っていたのが、ちょっとだけ可愛かったです。