1:婚約者を義妹に寝取られまして。
連載版、スタートです!
因果応報。
そう、これは因果応報なのです。
「ちちちちがうんだ、ニコレッタ! こ、これは……!」
肩まで伸ばしている金色の髪の毛をしっとりと湿らせ、王太子殿下が慌てて駆け寄ってきます。ほぼ全裸で。
彼は私の婚約者。
明日結婚予定だった、私の婚約者。
そんな王太子殿下のベッドには、身体はある程度隠しているものの、両肩と胸の谷間がドドンな赤髪の義妹がいました。
それはそれは気だるそうな顔で、乱れた髪を直しながら半身を起こしています。
――――事後ね。
「殿下。きちんと責任を取って、義妹と結婚してさしあげてくださいませね?」
「「え?」」
頭もお股もゆるゆるの義妹は、ラッキー!とでも言いそうな笑顔です。婚約者――王太子殿下が幼さの残る空色の瞳を揺らしながら、私はどうするのかと聞いてきます。
――――そんなの決まっているじゃない?
責任を取ってもらいましょう。国王陛下に。
◆◆◆◆◆
ギルヴァ王国の公爵家の長女である私には、生まれたときから大きな責務が課せられていました。
それは、まだ生まれてもいない王太子殿下の妻になること。
公爵家といえど、王族の血脈からは遠く、しかし国の重要なポストには常にいる家系。お祖父様と先王の契約により、私は王太子殿下の妻になることが決められていました。
王太子殿下が生まれたのは十七年前、私が十歳の頃でした。
王妃殿下が命を賭して産み落とした、この国の大切な大切な存在。
生まれてからずっと側にいたので、私は弟のような感覚になっていました。殿下は、私を姉のように慕ってくれていました。
激しい愛情などは抱かないものの、結婚して尊重しあえる間柄にはなるのだろう、と思っていたのです。
今思えば、殿下は姉というよりは母親のように思っていたのかもしれません。
幼い頃は、なんの衒いもなく、柔らかな笑顔で抱きついてきたりしていましたので。
五年前の冬、世界が一変する出来事がありました。
お母様が馬車の事故で帰らぬ人となったのです。そして、その半年後にはお父様が後妻を連れてきました。
赤い髪をした後妻である彼女は、昔我が家で働いていた侍女でした。
幼い頃にいつの間にかいなくなったなと思っていたような気がしますが、定かではありません。
そして、その後妻にはとても愛らしい娘がいました。私の義妹となる子です。
「お義姉さま、よろしくお願いいたします」
恥ずかしそうに俯いて、赤い髪をいじる義妹。十四歳にしては幼い印象でした。
このときまではまだ可愛いとしか思っていなかったのですが、数カ月後には義妹の本性が見えてきました。
とにかく人のものを欲しがる。私のドレス、宝石などは特に。
お父様は大変な幼少時代を過ごした子だから、欲しがるものは全て与えるようにと言います。義母にも大変な思いをさせたから、何でも願いを叶えてやりたいのだとか。
お父様は後妻である義母に心酔している様子でした。
義妹が初めての夜会に参加し、社交界デビューを果たした際は、義妹には知り合いもいなかったことから、ファーストダンスは王太子殿下と踊ることになりました。
義妹がそうしたいと願い、お父様が国王陛下に頼んだそうです。
そこから、義妹は王太子殿下につきまとうようになっていきます。
王太子殿下は一線を引いているように見えていたのですが――――。
◇◇◇◇◇
「まぁ、そういうことで、責任を取ってくださいます?」
「ニコレッタ嬢」
国王陛下の私室にお邪魔し、事の成り行きをお話しました。
昨晩は結婚式前夜の両家の晩餐会をしており、我が家の全員が王城に宿泊していました。
義妹も殿下もチャンスだと思ったのかもしれませんね。
時間も時間ですし、陛下は就寝されていたのでしょうが知ったことではありません。
ラフな格好でソファにドカリと座り、耳横で切りそろえられている緩やかなウエーブのかかった金髪を、オールバックにするようにかき上げながら、大きく深い溜め息を吐かれました。
「……すまなかったな。何でも希望を言いなさい」
三八歳という男盛りの国王陛下の色気が凄いです。
正直なところ、王太子殿下の子守など辟易としていました。
ただ殿下が大人になれば、国王陛下のように男らしくなられるのだろうというのが唯一の希望。
その希望も潰えてしまいましたし、今後は『愛に負けて捨てられた令嬢』というレッテルが貼られます。
そろそろ私も好きに勝手に生きても構いませんよね?
「では、私を陛下の妻にして下さい」
「――――っ!?」