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 第2話

じゃあ、始めるよ。


 オレの実家の前は坂道になっててそこを下ると私鉄のバスだけが通ってるバス通りがあって、その道を渡って3軒ばかりの住宅を過ぎるとちょっとした公園があるんだ。全体的には長方形で周りは桜と椎、コナラ、クヌギもあったかな。まぁどんぐりの取れる木が植わってた。結構広くて夏の盆踊りとか、ラジオ体操の会場になってたり、近所の子供会の催し物なんかもそこでやってて紙芝居のおじさんとかも来てた記憶がある。


 その公園、メインの入り口から入ると定番のブランコ、滑り台、砂場、鉄棒があってあちこちにベンチがある遊具のエリアとちょっとした灌木の植え込みを挟んでミニバスケットのコートが一面、それを囲む感じでベンチがあって。そのミニバスケットのゴールの奥にまた灌木と桜の植え込みがある感じで。その公園の遊具のエリア、ミニバスケットのコート、灌木の植え込みをぐるっと一回りできる小径があってさ。


 問題は小径の奥。小径の先の片方は公園の裏口になってて狭い階段を降りると住宅街につながってたんだけど、もう片方はそのままぐるっとミニバスケットのコートに戻れるようになってた。裏口と反対のぐるっと回る角にお堂があったんだよね。


 公園の一番奥の一番薄暗いところにさ、石造りで屋根は赤く塗ってあったな。格子戸が付いていて中を覗き込めるんだけど何せ暗くてね。目を凝らしても良く見えないんだ。木像なのか石像なのか、その頃のオレには石像に見えたんだけど、はっきりしない。一つだけしっかり覚えているのは目なんだよ。金色だか黄色だかに塗ってあってね、くらーいお堂の中でそれだけが光って見えてさ。その薄気味の悪さったら子供心にはゾッとしたもんだったよ。


 その頃一緒に遊んでた連中だか上の兄弟連中だかの誰が言い出したのか、そのお堂の像に『猫目地蔵』なんて名前を付けてね。いろんな噂が流れたんだよ。まぁ、子供の噂だ。夜になるとお堂から出てきて公園を徘徊するとか、格子戸をあけると飛び出してきて追いかけてくるとか。まぁ、そんな他愛のない噂だったんだけど。中でも夢で『猫目地蔵』に会って捕まると目が覚めなくなるってのがオレは一番怖かったなぁ。


 ところがどっこい、夢に出たんだよね。『猫目地蔵』。案の定追いかけられてさ、なんでか分からないんだけど逃げてるオレが青いバケツ履いてんのよ。まぁ、夢だもんな。何でもありっちゃそうなんだろうけどよ。走っても走ってもどんどん近づいてきてさ。ちょっと振り返ったら怒髪ってのか、炎髪ってのか要は髪の毛が逆立ってるヤツ。あの髪型で目はギラギラ光っててどう見ても鬼にしか見えなくてね。夢の中で大泣きしながら必死で逃げてさ。公園の入り口を駆け下りて道路に出たところで目が覚めて。もう寝汗びっしょり。よく漏らしてなかったと思ったよ。


 妙なのはさ、同じような夢を見たって友達が結構いたんだよ。集団ヒステリーにしちゃ夢だもんな、変だろ?みんなが口揃えて怒髪の鬼に追いかけられたって。それでみんな怖くなっちゃってさ。しばらくその公園で遊べなくなって何カ月くらいかな。何かの拍子で行ったんだよ。公園。そしたらさ、お堂無くなってて。あれ?って思ってその話をしたら、みんなぽかーんってしてさ。「お前何言ってんの?」くらいな感じで。みんな『猫目地蔵』のこと覚えてないんだよ。今度はこっちが「え?」って感じでさ。でも、やっぱり誰に聞いてもそんなもの知らないって。オレの姉ちゃんに聞いても「はぁ?」って。


 オレの記憶にしか居なくなってたんだよ。『猫目地蔵』。高校くらいまでずーっと気になっててさ。近所の図書館の郷土史まで引っ張ってきたんだけど。結局何も分からなくて。自分の記憶違いにしちゃおかしいよなぁ…。って思いながらも子供のころのことだからってだんだん忘れていったんだ。


 それがさ、携帯電話が普及してきてインターネットであちこちにBBSとか掲示板ができからなんだけど、たまたま見つけた地元の掲示板にその公園の話が出ててさ。居たんだよ。『猫目地蔵』知ってる人。正確には覚えてた人なんだろうけど。残念なことに結構古いログで書き込みしても誰も返事が無くてそれきりになっちゃったんだよね。


 でも、オレのほかにも覚えてる誰かが居たってことがびっくりでさ。夢でも妄想でもなかった。じゃあ、一緒に遊んでた友達とか姉ちゃんとか覚えていないのはなんでだ?って逆に怖くなってね。今でいう違う世界線にでも行ってたのかな?オレとその誰か…。これでおしまい。


どんとはらい。


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