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お題でSS  作者: 早桃 氷魚
4/24

7/5 閃光と人魚

(BLです)

 







 彼が海の中を泳いでいると、海面の方でピカッと閃光が走った。

 この辺りの海は、彼とその一族の縄張りで、他の人魚は近づかない。

 何だろうと思って、海面に向かって上昇する。

 友達の魚達も、後をついてくる。

 ざばぁっと海面に顔を出すと、小舟があった。

 その中に若い男が一人乗っていて、彼を見て驚いている。

「えっ! うそ、人魚だ……!」

 男は目を丸くして、小舟から身を乗り出し、彼をじっと見つめてくる。

 彼もびっくりして、男を見上げた。

「人魚じゃない?」

 男は上半身は彼と同じような体つきだが、下半身は違った。

 彼の足は一つだが、男には二本ある。

 昔、祖母が話してくれたおとぎ話を思い出した。

『人間』という種族は、尾びれが割けて二つになり、陸の上に住んでいるらしい。

「にんげん?」

 彼がたずねると、男は右手に持った棒みたいなものを振り回した。

「すっげぇ! ホントだったんだ!」

 なぜかとても喜んでいて、キラキラと輝くような笑顔で彼を見た。

 棒の先から、光が伸びている。

 それが彼の顔に当たって、まぶしい。

「んっ……それ、なに?」

 顔をしかめると、男が慌てて棒を下ろした。

「ごめん、眩しかった?」

「うん」

「ごめんね」

 男はそう言うと、棒を舟においた。

 光も消えている。

「オレ、迷子なんだ。陸に戻りたいんだけど、どっちの方向か分かる?」

 男がまじめな顔で尋ねてきた。

 彼は、東の方向を指した。

「あっち」

「ありがとう」

 そう言って男は、オールで小舟をこぎ出した。

 だが、漕ぎ慣れてないのか、速度はゆっくりだ。

 彼は小舟を後ろから押して手助けした。

「お、手伝ってくれるの?」

「夜になったら、人間は困るって聞いた」

 太陽は西に沈みかけている。

 彼は昼も夜も関係なく海を自由に動けるが、人間は夜は住処で休むのだと言う。

 祖母から聞いた話を話すと、男が笑顔で礼を言った。

 小舟が東に進む間、二人はいろんな話をした。

 人間の世界では、人魚は幻の存在らしい。

 彼の住む人魚の世界でも、人間の存在はおとぎ話でしか知らない。

 だから、彼は『人間』が本当にいると知って、嬉しくなった。

 日が沈むころに、陸が見えてきた。

 男は、ここまででいいと告げ、真剣な顔で彼を見た。

「また、会いに来てもいい?」

「いいよ」

「どうやったら、君に会える?」

 彼はさっき男が持っていた棒を指した。

「さっきみたいに、光ったら分かると思う」

 彼がこの辺りを泳いでいれば、だけど。

 それでも男は、嬉しそうに頷いた。




 彼は男と別れて、海の中に戻る。

 近くを泳いでいた友達の魚が話しかけてくる。

「人間と仲良くしていいの?」

「王様が知ったら、怒られるんじゃない?」

 心配そうな魚に、彼は笑った。

「縄張りを荒らしたわけじゃないし、大丈夫だよ」

 無邪気な笑顔に、魚達は小声でぼそぼそとささやき合う。

「そういう意味じゃないんだけど」

「ぜったい狙ってたよねー」

「王子、天然だから」

「いざとなったら、あの人間を人魚にしちゃえばいいんじゃない」

 ぼそぼそ、内緒話は続く。

 彼は、そんな魚たちの会話を気にも留めない。

「次って、いつ来るのかなぁ」

 頭の中は、さっき会った男のことでいっぱいだった。




 男が陸に上がると、家臣が泣きながらかけよってきた。

「陛下! よくぞ無事で!」

 小舟で海に流された男を、みな必死で捜していたようだ。

 しかし男は悪びれる様子もなく、陶然とした表情でつぶやいた。

「やべぇ。めっちゃ可愛かった」

 その後、男はたびたび城を抜け出して行方不明になる。

 事情を知る家臣は、ため息をこぼすばかりだった。





(終)



お読みいただき、ありがとうございます!


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お話を書くモチベーションが爆上がりしますヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪


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