7/31 新世界と夏祭り
(BLです)
夏祭りなんて、子供の時以来だ。
キャップを目深にかぶって、黒いTシャツを着た彼が、屋台の前を通るたびに、オレをふり返る。
「あれ食べる?」
「んーいいや」
「金魚すくいする?」
「オレ、下手だもん」
断るごとに、彼が困った顔になっていく。
せっかくのデートなのに、彼が時間を作ってくれたのに。
オレは気持ちを押し殺すように、曖昧な笑みを浮かべる。
本当は嬉しくて飛び上がりそうなくらいだった。
どうせダメだろうと思って誘った夏祭りに、彼と一緒に来られたのだから。
「機嫌悪いの?」
「そんなことない」
「でも、ぜんぜん楽しそうじゃない」
「……」
彼は責めるわけでもなく、優しく声をかける。
「何か、嫌なことあった?」
「ない」
「俺といても、つまらない?」
「っ、そんなわけないだろ!」
どんなに彼に会いたかったか。
昔みたいに、いつでも会いに行ける距離から、遠くへ行ってしまったのは彼の方だ。
オレの知らない、新世界へ飛びこんでいった。
もうオレのことなんて忘れるのだろうと思っていたのに、今でも繋がっている。
「どうしたら、喜んでくれる?」
優しい彼は、いつでもオレを気遣ってくれる。
昔からちっとも変わらない。
「……二人きりになりたい」
夏祭りに誘ったのはオレの方なのに。
オレは、彼と二人だけの時間が欲しい。
誰の目も気にせず抱きしめて、キスをしたい。
「分かった」
彼がにこりと微笑んで、オレの手を握る。
「じゃ、行こうか」
笑顔で手を引かれて、オレは彼の後をついていく。
彼の大きな背中を眺めながら、期待に胸が大きく高鳴った。
(終)
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