7/24 郷愁とコーラス
(BLです)
コーラス部に入ったのは、彼に誘われたから。
必死で頼みこむ彼に、ほんの少しの下心があって、頷いた。
別に歌は好きじゃなかったけど、彼と一緒にいたかった。
ただそれだけだ。
大人になってみると、付き合いも変わる。
合唱のような音楽とは無縁になり、ただ会社に行って帰るだけの毎日。
つまらないと思っても、会社を辞める勇気も、転職する気力もない。
TVでたまに地元の名前が出てくると、彼のことを思い出して、胸に小さなとげがささる。
郷愁というよりは、後ろめたい後悔のようなもの。
青春ともいえる学生時代、ただ流れるように過ぎて行った。
けど、一つだけ、誰にも言えない秘密がある。
同性だった彼に、恋をしていた。
想いを伝えるつもりはなかったけど、一度だけキスをしたのだ。
うたたねをしていた彼を見て、つい、衝動的に。
彼は起きなかったし、誰にも見られていない。
オレの思い出の中だけに、残っている。
墓場に持っていく秘密だ。
そのはずだった。
「あれ? 久しぶりじゃん」
仕事帰りに寄った居酒屋で、彼と再会した。
あの頃と変わらない笑顔で挨拶してくる。
「一人?」
「うん……」
「俺も一人」
そう言って隣に座る彼が、にこやかに言った。
「こんなところで会えるなんて、ラッキー」
再会を喜ぶ彼が、オレに耳を寄せる。
「あのさ」
「なに?」
小声で話しかけられ、胸がドキドキしてきた。
あの頃と変わらない恋心に、こぶしをぎゅっと握りしめる。
「俺、お前に聞きたかったことあるんだ」
「聞きたいこと?」
何だろう?とぼんやり考えたが、
「そ。キスの話」
「えっ!?」
思わず声が裏返った。
まさか、そんなはずない……!
動揺するオレに、彼が楽しそうな顔で肩をたたいた。
「まあまあ、飲んでからな」
昔と変わらない態度で話す彼。
意味ありげに笑っているが、意地悪をする感じではない。
バレてる予感はあったが、責められるわけでも、脅されるわけでもなさそうだ。
彼との関係は、悪化しないかもしれない。
オレは神様に祈りながら、不安を流すようにビールを一気に飲み干した。
(終)
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