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弁当懐古

作者: 江本紅

朝7時、目覚まし時計が部屋を鳴り響く。


けたたましく鳴るもんだから、どんなに体が重くても起きるしかない。


時計がある方へ布団から出した手を伸ばす。なかなか時計の感触に会わなくて、ようやっとプラスチックの質感に出会い、音がやむ。


もう5分だけ!と思いながら布団から出ずにいたら、今度は第二の目覚まし君が鳴る。遅刻しないように、携帯にもアラームを設定していたんだった。携帯は机の上においてあって、起きなければこの音は永遠になり続ける。昨日の自分、グッジョブ、そして安眠よ、さようなら。


ようやく布団から出る。今週も月曜日が来てしまった。でも、来てしまったからにはもう走り始めるしかない。さて、顔を洗いますか。


そう思い立つと、都は部屋のカーテンを開けた。6月というのに肉が焼けるような日照りが襲う日々が続いている。今日もまだ7時だというのに、日光が高くあがっている。朝日は相変わらず早起きだ。


顔を洗いに洗面所に行く。途中に脱ぎ散らかした衣服を発見する。これは!と思う都。これは普段の月曜日だ。片付けが壊滅的に下手で、脱ぎ散らかしたような衣服であっても、れっきとした洗濯済の洋服たちだ。畳んで積み上げといたものを、ベッドに行くときに倒したんだろう。きっとそうに違いない。いつもそうだから。


よし、顔を洗ってからなんとかしよう。洋服を飛び越え、洗面所に向かう。水に顔を浸すと、なんだか一日が始まった気がする。気持ちいい。このまま寝てしまいそうだ。いかんいかん、寝てしまっては呼吸ができない。顔を水を張った洗面台からあげると、タオルでごしごし拭く。


さっぱりしたら、今日の予定を確認しに、スマホをあける。ふむふむ。今日は授業が一つ午前中にあって、オンラインではなく対面。ん?対面?いつもはオンラインなもんだから、授業が始まる11時くらいまでゆったりと過ごすが、何か対面でしかできないことをやるらしい。


時間を見る。まだ7時20分。10時に出れば間に合うから、大丈夫。久しぶりの対面授業だから服もきちんとしたものに着替えなければいけない。そうだ、学食にも行きたい。ここ1年くらい大学生であるのに、学食に行っていないことを思い出す。その前に財布を探さねば。


財布は昨日の鞄に入れたままだった。昨日は友人と遊びに出たのだ。ということは、、?と思い、財布を開く。案の定、500円しか入っていなかった。誕生日プレゼントを買ったりしたせいで、財布に入っていたお札は羽をはやしたかのように消えてしまっていた。学食は300円のものもあるが、これはなんだか使う気になれない。


そうだ、弁当を作ろう。時間もあるし、材料もあるだろうから作れるはずだ。都は基本的に自炊だ。だが、ここのところオンライン授業だったので、弁当は久しぶりに作る。


弁当を作るためには、まず弁当箱を用意しなければいけない。膝をおり、食器棚の下の棚に手をのばす。たしか、実家から送られてきたやつは全部ここに入っていたはずだ。開くと、懐かしいプラスチック素材の容器がたくさん出てきた。某遊園地のネズミのキャラクターが書かれている容器、不思議の国のアリスの容器、蜂蜜が大好きな熊の容器などなど、高校生までは当たり前のように見ていたものたちが山積みになって収納されていた。大学に入ると同時に、こんな状況になってしまったので、せっかく都の母が送ってくれた弁当箱もほとんど用なしになって箪笥の肥やしになっていた。


その中から一つ取り出す。なんとなく手に取った容器はフランス柄のタッパーだった。赤白青のトリコロールが可愛らしく排列されている。タッパーの隅に描かれているエッフェル塔をなぞりながら、都はこれを現役で使っていたころを思い出す。


都の母は、出産後も仕事をしているようなパワフルな人だった。料理好きで、気になる料理本はすぐに買ったり、新聞の料理面を切り抜いたりしていた。そんな調子で、都が高校生の時もよくわからない味の組み合わせのものを作っていた。


はんぺんだけを挟んだサンドイッチに、パンの代わりにご飯で挟んだサンドイッチ(?)などなどは日常茶飯事。弁当箱に入れるご飯の量は尋常じゃなく、箸で食べようとすると詰めすぎて全部すくってしまえるほどご飯粒がくっついてしまっていた。お昼はいつも弁当箱3パックで、おかず、ご飯、果物、とどれも充実していた。


そんな弁当は嫌だ、量を減らしてほしいといったことがある。というのは、太ったからだ。ちょうど部活を引退した高校3年生の時、自分の体が重くなってきていることに気づいた。制服のスカートから少しお腹の肉がはみ出始めたのだ。人間というものは、運動しなくなるとあっという間に増幅してしまうらしい。都に限ったことではあると思うが。クラスメイトと比べ、頬肉が膨らんでいる自分の姿を鏡で見、ダイエットを決意した。


ということで、減らしてほしいと母に言ったのだが、翌日の弁当は今までの弁当と変わらないままだった。どうしてか問いただしたところ、彼女曰く、「足りないでしょ。お腹が途中でなったらどうするの?」だった。運動しないので、まったく足りないということはなかった。どれだけ太っているのか、その状況を知らない母に、憤りを感じ、弁当を残したこともあった。弁当を開ける度に、また多いなとか思っていた。


大学入学と共に上京し、そんなことはなくなった。自分で料理をする際は、量に気を付けているから、あんな風にいっぱいの具材を使った弁当が今はなんだか懐かしく感じる。


卵焼きを焼く。卵焼きのポイントは、卵液を最初に入れすぎないことだと勝手に思っている。ジューっと焼ける匂いがする。くるくると巻き終えると、まな板の上に出し、包丁で真ん中をぱっくり割る。うん。いい出来だ。久しぶりにしては上出来だ。


チンしたご飯をタッパーに詰め、肉、野菜、トマト、卵焼きを詰め込む。これくらいで足りるだろう。完成した自作の弁当は、母の作ったものよりも不格好になってしまったが、とりあえず弁当はできた。


いつか自分に大切な人ができたら、その誰かのためを思って楽しんで作るんだろうな、と心の縁で重いながらリュックに入れた。

みなさんはどんな弁当を作ってもらっていました?私の弁当は奇想天外なものばかりで、作り主のうちの母は友達から変人だと思われていました笑

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