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死んだ彼の詳細

「今、警察も動いて調べているが……彼の死の動機がいまいちよくわからない」


 名越 正樹の家に来た警察官は、最初にそう言った。一体どういう意味だろう? 正樹は素直に警察官に質問した。


「死の動機って……殺される理由ですか? それとも自殺の……?」

「今の段階では、自殺と他殺の両面で捜査を進めている。ただ、どちらにしても原因がはっきりしない。少なくても自室からは、遺書らしき物は発見されていないね」

「そう……なんですか」

「他の家にも、いくつか訪ねて回っていてね。聞いた話によると……君は死んだ生徒と仲が良かったらしいね? 中学二年生の時、同じクラスとこちらでも確認している。実際の所どうなんだ?」


 やっぱりそういう理由か……正樹は覚悟していたものの、胸が苦しくなった。そしてどう彼との関係を説明したものか……と、警察官の前で悩むことになる。


「仲が良かった……と聞かれると、正直何とも言えないです。僕は彼より、仲の良い友人はいくらでもいました。確かに席替えの時、三回ほど隣になりましたけど……特別親しかったって訳じゃ……」

「けれど、他の生徒たちの多くは、君がクラス内で最も親しい人間として、名前を挙げていた。証言によると……君にしか知らないことがあるんじゃないか? 中には君が殺したんじゃないかなんて話もある」

「やめて下さいよ……」

「ははは、分かっているよ。あくまで証言だ。鵜呑みにするつもりはないが……けれど君の証言が気になるのも、順当な捜査の流れさ。何か、彼について知っているかい?」


 変に隠さない方がいい。正樹はそう思った。噂レベルでも疑いがある以上、余計な後ろめたさから物事を隠せば、変な方向に話が行ってしまうかもしれない。正樹は……中学二年生の時、同じクラスメイトだった優魔について証言した。


「彼は……クラスでは浮いた存在でした」

「ほぅ? それはどういう?」

「その……結構暗い感じの生徒で、絶対に自分から目立とうとしないし、主張も特にしない。いわゆる空気系の人間でした。友人関係も少なくて……だから、僕がクラスで一番仲が良いって評価なのは、他に寄り付く奴が全然いないから、僕ぐらいしか話す奴がいない……って意味だと思います」

「うん……そうらしいね」

「でもこれ、少し違うんです」

「うん?」


 彼について……明石 優魔について、誰も正確に語りはしないだろう。何せ彼からは、多くの人が距離を取っていた。その理由は少々、大人の人に説明するのが、難しい。


「あの……警察官さんは『中二病』ってご存じですか?」

「何となくは分かる。こう……思春期特有の、妙な言動の事だろう?」

「彼……優魔はその……かなりの重篤な奴でした」

「……………………もしかして、それでクラスメイトが距離を取っていたのか?」

「はい」


 警官は『なんだかなぁ……』と言う表情をしている。けれどこれは真実だ。明石 優魔は、思春期の人間でさえ、ちょっと引くレベルの奴だったりする。だから、警官はこんな疑問を口にした。


「まさか、それが原因でいじめがあった? 彼はそのストレスや苦痛から逃れる為に……自殺した可能性がある」


 何か知らないか? 質問するような物だ。けれど正樹は――それだけはない、と断言した。


「彼は……その、本物に近づいていたんです」

「? 意味が分からない」

「その……ただちょっと変な言動をするんじゃなくて……本当に『使える』って話があるんです」

「使えるって……何を?」

「……呪いです」


 一気に目線が胡散臭くなった。けれど――これも含めて、間違いないと思う。すぐに正樹は「そういう反応をされると思ったから、誰も話さなかったのだと思います」と返した。


「彼は……呪いや呪術について、自分で勉強していたんです。実は同じクラスになって、最初の頃は刑事さんの言う通り、イジメっぽい空気もありましたけど……」

「けど?」

「優魔をからかっていたリーダーの人、確か六月ぐらいかな……急に鬱になって、不登校になったんです」

「偶然だろう?」


 呪いなんて馬鹿馬鹿しい。態度からして取り合わない気配の警察官に、正樹は真剣に続きを話す。


「その数日後は、鬱になった人の……別のクラスだったんですけど、彼女の人が包丁で指をざっくりやっちゃって。そこから連鎖するように……優魔に悪い意味で絡んでいた人が、次々と不幸に襲われたんです」

「優魔君が手引きしたんじゃないのか?」

「分かりませんけど……でも、それこそ証拠があったら、警察沙汰になっていると思いますよ」

「それは……しかし偶然じゃ……」

「実際の所、分からないです。分からないですけど……でもクラスメイト達は信じていました。アイツが……優魔が呪いをかけたんだって。アイツに下手な事をすると、悪いことが……祟りや呪いが起きるって」

「そんな馬鹿な……」

「なんか魔術書とか言って、びっしり文字を書いたノートがあったと思います。他にも神話とか魔法とか伝説とか、ものすごく詳しい奴でした。だから……本当かどうかはともかく『クラスメイトと担任の先生は、彼が本物と信じていました』そう思わせるだけのモノを、纏っていたと思います」

「そ、そうか……ありがとう、参考になったよ」


 言葉とは裏腹に、むしろ警官は引いている。

 本当の事なのに……と不満を溜めたけど、変に容疑者にされるよりはマシだ。その後は適当に、当たり障りのないやり取りを交わして、警察官は去っていった……

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