6.ピカスケ(2)
彼には高い空から地面にたたきつけられそうになったのを救ってもらった恩がある。
命の恩人、いや恩竜のたのみにはなるべくこたえたいとナツコは思って、わざわざ家にまで連れてきたのだ。
金の竜は
「さよう。先ほどももうしたように王子の探索の手伝いをお願いしたいのでござる。なにせ、それがしこの人間世界は今回が初めてでござって、万事に不慣れでござる」
そうして、のど元に引っかけたえびせんをゴクンと飲みくだすと
「――まずは、もともとのことのはじまりより、もうし上げねばなりますまいな。
かしこくもわれらが竜の国の大王・竜王さまにあらせましては、ご不幸にもそのあとをお継ぎになる男御子さまがおらせられませぬ。このままでは次期王位をめぐって国が乱れるのは必定。臣下・竜民ともに悲しんでおるところでござったのですが、ここに一つ、希望がございます。
われら竜は生涯にただ一度、見聞を広める意味からこの人間世界におりたつことがゆるされておりまする。かしこくも現・竜王さまにあらせられてもそれはご同様で、かつて皇太子であられたころに、この人間世界にご遊学あそばされたことがあるのです。
そこで王さまは人間のすがたに身をやつしておられましたが、一人の人間の女性と出会い、わりなき仲となられました。
しかし竜と人間との恋はきついご法度。また、王さまは竜の国を統治せねばならないお立場。おふたりはお別れになり、王さまは竜の国におもどりになったのでございます。
されど、ここになんという天の配剤でしょうか!この時すでに女性のお腹には王さまとのあいだの御子がやどり、のちに無事にご出産なされたのです!
……いやはや、数多おられる竜のお妃がたとのあいだには一度として御子をなすことの無かった王さまが人間との間に御子をなすとは、これはなんとも奇特なことでござる。
それより時も流れ、後継ぎが実際におられない今、頭のかたい元老院の方々も人間とのあいだの御子を王とすることを受け入れられました。
そこで王子さまをおむかえするために、それがしども兄弟が派遣されたのです」
金の竜はふるめかしい言葉を使うので意味が分かりにくいが、ナツコにも、その言いたいことはなんとなくわかった。
「――ってことはなに?その王子さまっていうのは竜と人間のハーフなの?」
「ハーフとは?……おお、たしかに半分半分でござるな」