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竜の王子をさがせ!  作者: みどりりゅう


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39.出立のとき(4)

 ユウの存在感がうすれたのは小学校でもおなじで、教室にいてもユウはもはやわすれられた、いや、そもそもはじめからそんな子なんていなかったものになっていった。


 それはピカスケに言わせると当然のことで、竜に一度なった以上いつまでもユウが人間世界に痕跡をのこすことはできない。竜の国に去ってしまえば、じきに人の記憶からも記録からも、その存在は消えてしまう。そのあともおぼえているのは、カズヨやナツコ、浅倉先生、それに早川先生など竜を見ることができたものたちだけだ。


 早川先生は今回の一件ではいたく反省していた。

 黒の竜にだまされたとはいえ

「教師を長年つとめた自分が、こどもを危険にさらすことになったことが、なさけなくてしかたない。図書館司書もやめようと思う」


 とまで言っていたのだが、ナツコや浅倉先生が、それでは図書室の運営がこまると必死になって止めたので、とどまってくれた。ただ、この見おくりの場にすがたを見せていない。あんなに竜の国に行きたがっていたのに


「……いや、そのわたしの欲につけこんで黒の竜は来たのだ。はずかしくて顔は出せんよ」

 と辞退したのだ。


 一方、この場にかけつけた浅倉先生はユウの旅立ちに、すこしなみだぐんでいる。ナツコは、この先生が自分の担任児童のことで感情を出しているということがおどろきだった。


 ここ数日の浅倉先生のふんいきの変わりようはすごくて、5年2組の児童全員が目を白黒させている。

 あんなつっけんどんな空気を出していた先生が、積極的に自分からこどもたちに近づくようになってコミュニケーションをとるようになったのだ。


「――わたしは、ほんとうはもう教師をやめようかと思っていたのよ。

 小学校の先生は、こどものときからのわたしの夢で、なることができてほんとうにうれしかった。でも、実際になってみると、どうやってあなたたちこどもと関わったらいいかわからなくなってしまったの。

 最初に赴任した日にうまくいかなかったから、それからは、もうむだに口を開くのもおそろしくなってしまって……あなたたちとの距離はちっともちぢまらないし、自分は先生には向いていないのじゃないかと、すっかり自己嫌悪におちいっていたわ。

 ただ今回、たまたま竜が見えたことがきっかけであなたたちと命がけで接することになって、わたしははじめて教師として児童とコミュニケーションが取れた気がしたの。

 自信がないのは今もだけど、学校の先生をつづけていこうという気持ちは強く持つことができたわ」


 そして、ユウに向かって

「いい?たとえあなたが竜の国の王さまになっても、わたしたち以外の人間があなたのことをわすれてしまったとしても、あなたがかむの第三小学校5年2組の児童で、わたしがあなたの担任教師だったということは変わらないわ。それをわすれないでね」


「はい。わかりました、先生」


 抱き合った。

挿絵(By みてみん)

 ユウの存在感がうすれたのは小学校でもおなじで、教室にいてもユウはもはやわすれられた、いや、そもそもはじめからそんな子なんていなかったものになっていった。


 それはピカスケに言わせると当然のことで、竜に一度なった以上いつまでもユウが人間世界に痕跡をのこすことはできない。竜の国に去ってしまえば、じきに人の記憶からも記録からも、その存在は消えてしまう。そのあともおぼえているのは、カズヨやナツコ、浅倉先生、それに早川先生など竜を見ることができたものたちだけだ。


 早川先生は今回の一件ではいたく反省していた。

 黒の竜にだまされたとはいえ

「教師を長年つとめた自分が、こどもを危険にさらすことになったことが、なさけなくてしかたない。図書館司書もやめようと思う」


 とまで言っていたのだが、ナツコや浅倉先生が、それでは図書室の運営がこまると必死になって止めたので、とどまってくれた。ただ、この見おくりの場にすがたを見せていない。あんなに竜の国に行きたがっていたのに


「……いや、そのわたしの欲につけこんで黒の竜は来たのだ。はずかしくて顔は出せんよ」

 と辞退したのだ。


 一方、この場にかけつけた浅倉先生はユウの旅立ちに、すこしなみだぐんでいる。ナツコは、この先生が自分の担任児童のことで感情を出しているということがおどろきだった。


 ここ数日の浅倉先生のふんいきの変わりようはすごくて、5年2組の児童全員が目を白黒させている。

 あんなつっけんどんな空気を出していた先生が、積極的に自分からこどもたちに近づくようになってコミュニケーションをとるようになったのだ。


「――わたしは、ほんとうはもう教師をやめようかと思っていたのよ。

 小学校の先生は、こどものときからのわたしの夢で、なることができてほんとうにうれしかった。でも、実際になってみると、どうやってあなたたちこどもと関わったらいいかわからなくなってしまったの。

 最初に赴任した日にうまくいかなかったから、それからは、もうむだに口を開くのもおそろしくなってしまって……あなたたちとの距離はちっともちぢまらないし、自分は先生には向いていないのじゃないかと、すっかり自己嫌悪におちいっていたわ。

 ただ今回、たまたま竜が見えたことがきっかけであなたたちと命がけで接することになって、わたしははじめて教師として児童とコミュニケーションが取れた気がしたの。

 自信がないのは今もだけど、学校の先生をつづけていこうという気持ちは強く持つことができたわ」


 そして、ユウに向かって

「いい?たとえあなたが竜の国の王さまになっても、わたしたち以外の人間があなたのことをわすれてしまったとしても、あなたがかむの第三小学校5年2組の児童で、わたしがあなたの担任教師だったということは変わらないわ。それをわすれないでね」


「はい。わかりました、先生」


 抱き合った。

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