36.出立のとき(1)
それから三日後の満月の晩、ふたたび明神ヶ池に人、そして竜があつまった。
ナツコ、ピカスケ、ユウ、カズヨ、そして浅倉先生だ。
黒の竜は発動したユウの力によっておさえこまれ、いまはガラスびんの中に封じこまれている。
「このまま竜の国に護送いたします」
と、ピカスケは言った。そして、ため息をつくように
「――彼をこのような形でとらえなければならないとは残念なことでござる。
黒の竜はもともと、現・竜王さまの叔父上にあたるものでござる。本来ならば、王族として、それがしがおつかえすべき立場の方なのですが、お兄上である先代・竜王さまと仲たがいなされて宮廷を追放され、王位をつぐ権利もうばわれました。
しかし黒の竜には一子がいて、その子は王位をつぐ権利をうばわれてはおりません。つまり、ユウ王子さまが見つからなければ、黒の竜の子が竜王になることができたのです。
それが今回、黒の竜にこのような常軌を逸した行動をとらせた理由です。宮廷を追放されて以来、つらい暮らしをお送りでしたので、せめてわが子は王にしたい、という親の情がまちがったかたちで彼をかりたてたのでしょう。……どうかおゆるしめされてくだされ」
ピカスケのことばに
「……片方の親はこどもを王にしたくなくて逃げまわっていたのに、もう片方の親はこどもを王にしたくて追いかけていたのね」
カズヨさんがうらめしそうにつぶやいた。
そう言いつつ、また泣きそうである。いままで泣きあかしていたのがわかる、つかれた表情だった。
その横によりそうように
「カズヨさん。もうそんなに泣かないでよ」
と声をかけるのは、人間の仮姿をとるユウだった。
(そう。もう、こっちの方が仮なんだよね……)
親子を見つめるナツコは、複雑な思いだ。
いちど竜に変態をしたあとは、ユウの人間としてのすがたも変わってしまって、もともとすらりとした背は一段とたかく、顔つきにもりりしさが増している。すっかりおとなになりかけの「男の子」だった。
(まさか、竜の王子が女の子だとは思わないもの)
そのすがたに当惑しながら、ナツコはピカスケからきいた説明を思いだした。




