33.竜の王子(2)
「――ウウム、どうも『におう』な。早川、おまえがとっととかたづけないから金の竜めが来てしまったではないか」
そういう黒の竜を見ると、さっきはちゃんとあったはずの左目がなくなっている。つまりいま、黒の竜は両目ともにない!
「黒の竜!おぬし、のこっていた片目をつかったのか!?」
ピカスケがさけんだ。そして、ふしんがるナツコたちに
「あの宝珠は、かたじけなくも初代・竜王さまが死のまぎわ、みずからのまなこをくりぬいておつくりになられたというもの。その修理にはおなじく竜の目が必要とされておりまする。まさかすでに片目のない彼が、両方の目をなくすこともいとわず修理するとは、それがし思っておりませなんだ」
「ふん!竜の王子を見つけることができるのならば、この目など、なにも惜しくはないわ!きさまらごときを相手どるには、鼻さえあればじゅうぶんよ!……早川、それでちゃんと宝珠はかがやいているのだろうな?」
「――ああ、赤く光っている」
早川先生がしばられたキミノリたちに宝珠をちかづけると、つよく珠はかがやいた。
「早川先生!なんでこんなことを!」
ナツコの問いに、早川先生は白くなったひげをひねりながら
「……平山さん、あなたには前に言ったことがあったね?わたしはこの土地の生まれだと。
わたしは小学生のとき、この明神ヶ池で竜を見たのだよ。しかし当時、そのことをまわりのおとなに言っても、だれも本気にはしなかった。むしろウソツキ呼ばわりされたものさ。それでだれにもそのことは言わなくなったが、内心では、以来わたしはすっかり竜にとりつかれてしまったのだよ。教師をするかたわら、研究をつづけてきたのだ。
そんなわたしがほぼ60年ぶりに出会った竜、それがこの黒の竜だった。黒の竜への協力を約束したわたしは、君たちの行動も見はっていたのだよ」
「早川先生は、平山さんとわたしが給食室前でしていた話もこっそり聞いていたの!だから、次の日5人の王子候補を集めることが黒の竜にもれてしまった!」
浅倉先生のうったえを聞きながすように、早川先生は
「すまないね。きみたちこどもをあぶない目にあわすつもりは無かったのだが、黒の竜にすべて秘密にしておくよう言われたものだから。なにせ黒の竜は自分に協力すれば、わたしを竜の国につれていってくれると言ったのだ。それは長年にわたって竜を研究してきたわたしには、あらがいがたい申し出だったのだ」
「なんと!さようなつまらぬことのために、王子を殺める手伝いをするというのか!?」
ピカスケの問いかけに、早川先生はわらって
「あやめる?なにをバカな。竜の王子候補をさがしてきたら、その子に竜じゃなくなる薬を飲ませてふつうの人間にする、というから協力を約束したのだよ。人間界でふつうに暮らしているこどもを、竜の都合でかってに王にさせるのはかわいそうだと……なあ、黒の竜どの?」
しかし、その問いかけに黒の竜は冷たくこたえた。
「……そんな薬などない。はやくそこにいるこどもを始末しろ、早川」




