32.竜の王子(1)
「お子さまは竜の王になるべきお方です。そのおむかえのためにそれがしはまいりました」
「あの子はわたしの子よ!竜の国になんか行かせる気はないわ!」
カズヨさんのさけびに、ピカスケはゆっくり間をあけるとなだめるように
「……あなたさまも察しておられるはずです。お子さまの中で竜の血がめざめつつあることが。お子さまは、もうわれわれ竜の仲間入りをはたさねばならない時期をむかえつつあるのです。ただしい成長にみちびいてさしあげるのが、親としての義務でしょう。それはおわかりのはずです」
そのことばにカズヨはくやしそうになみだを目にためていたが、しばらくするとしぼり出すように言った。
「――ときどき、力の暴発があるの。このあいだも、あの子が寝ているあいだに家具が、しっちゃかめっちゃかに飛びちって……そのときは地震があったとかなんとかごまかしたけど、この先あたしどうしていいかわからなくて……夫にもこんなことは相談できないし……」
「力の制御には、われらおとなの竜のたすけが必要です。いったい王子さまはどこへ?」
「知らないわ。てっきりナッちゃんといっしょだとばっかり思っていた。さっき浅倉先生から電話があったときにはまだ……」
「浅倉先生!」
ピカスケとナツコは顔を見合わせた。
――いやな予感がする。
そのとき、カズヨがナツコのうしろ、外のほうを指さした。
「……ねえ、あの雲ちょっとヘンじゃない?なんだか赤く光って……」
ナツコとピカスケがふりかえると、その先には、たしかに異様な赤いかがやきがあった。
「あれは宝珠のかがやき!しかしまさか!?あの珠はわれてしまって力を発揮できないはずですが!」
ピカスケのさけびに、ナツコが
「とにかく、行こうよ!あの光が出ているもとは……明神ヶ池だ!」
ふたりの人間と一匹の竜はかけだした。
明神ヶ池のほとりには、なんとも言えない、なまぐさい風がふきすさんでいた。
ナツコとピカスケ、そしてカズヨがかけつけると、そこには丸太のようなふとい胴をうねうねとさせた黒の竜のすがたがあった。
そしてその横の木にはキミノリ、ユウ、そして
(えっ?どういうこと?)
浅倉先生が「しばりつけ」られていた。
先生はさけんだ。
「ああ!平山さんにピカスケ、そして佐々木さんのお母さんも、来てくださったのね!……ごめんなさい、わたしがついていながらこんなことに……まさかこの人が黒の竜の味方だなんて思わなくて」
3人がしばられた木の横に立っているのは、なんと司書の早川先生だった!
その手には赤く光る宝珠がかがやいている。




