31.疑惑の放課後(7)
「……やはりそうでしたか。いま、それがしのことが見えたのに見えないふりをなさいましたな?」
ナツコはおどろきで声も出ない。
ピカスケはそんなナツコにほほえむように
「さきほど申しましたでしょう?われらを見て見ぬふりをすることもありえると」
「どういうこと?まさか、カズヨさんが黒の竜に?」
「いえいえ、そうではありませぬ。それがしはこの方が黒の竜と通じているなどとは思っておりませぬ。それどころか、この方はそれがしが、うやまってお仕えせねばならないお方です。――ご無礼つかまつりました、おきさきさま」
ピカスケは深々と頭を下げた。
「――よく考えれば、かしこくもわれらが王とのあいだにお子をなされた方が、竜を見ることができないはずはありません」
「……カズヨさんが、王子の母親!?」
ナツコは、だまりこくっているカズヨを見て、わかった。
(そうか!キミノリくんが「竜の王子」だったんだ。銀の竜が図書室あたりに感じたという王子の反応は、あつめた5人の中にではなくバケツを持っていったキミノリくんに対するものだったんだ。そして、きのうの黒の竜の襲撃のときも、キミノリくんは竜が見えない「演技」をしていたんだ!あんなとぼけた顔して、すごい役者っぷりだ!)
カズヨはピカスケを見下ろすと
「わたしはきさきなどではないわ。竜との縁は切れたはずでしょう!?」
にがにがしそうに言った。
「そうかんたんにはまいりませぬ。それがしは竜王さまのご命令により、まいったものでございまする」
「竜王?――ああ、ほんとうにレインは王さまになったのね?わたしといっしょにいたときは、まだ王子だった」
「レイン?」
ナツコの問いにカズヨは
「わたしが、その……竜王につけた名前よ。竜は名前がないでしょう?いちいち『王子』とよぶのもなんだから名前をつけたの。……わたしたちは雨の日に出会ったから」
(カズヨさんもあたしといっしょで、やっぱり竜に名前をつけたのか。雨……あたしがつけたピカスケよりかっこいいな)
「――レインに、自分は本当は竜だと言われた時はおどろいたわ。なにせ、最初は人間のすがたで知りあったのよ。たしかに街中を裸足で歩いていてヘンな人とは思ったけど、まさか竜……それも王子だなんてね。
ただ、そのときはそんなちがいも気にはならなかったの。愛があれば、のりこえられると思っていたのよ……まちがっていたけどね」
カズヨさんは、むかしのことを思い出すのがちょっとつらそうに言った。
「――いくら愛しても竜と人間とのあいだでは、その愛のかたちがちがうのよ。レインはいっしょに竜の国にきてほしいといったけれど、わたしにはそれができなかった。人間をやめて竜になりきることができなかったのよ……。
そして、あのひと、いや竜は去っていった。こどもができているのを知ったのはそのすぐ後よ。
それから数年してわたしは佐々木と結婚した。子づれどうしの再婚でね。たまたまおなじ年おなじ月の生まれの子がいたというのには、不思議な縁を感じたわ」
(そうか!キミノリくんとユウちゃんは血がつながってないんだ。誕生月までいっしょだから、てっきりふたごだと思っていた。ふたごでも似てないことがあるって聞いてたから……)
「おたがい急に他人と親子になるわけだから、お父さん・お母さんも言いにくいと思って、それでウチではすべて名前でよびあうことにしていたの」
(そういう理由があったのか。それなのにあたしまで調子にのって「カズヨさん」って名前でよんだりしちゃって……わるいことしちゃった)
急な展開についていくのがやっとで、声も出せないナツコをおいて、ピカスケはカズヨに話しかけた。




