30.疑惑の放課後(6)
ピカスケと学校にもどったナツコは、なるべく人に見つからないように気をつかって行動した。
臨時休校なのだから本当はもうこどもは学校にいてはならないからだ。だから職員室にも、ふつうの人間には見えないピカスケを偵察に行かせた。
「どうだった?」
「――なにやら、おとなの人間でひどく混みあっておりますなぁ。わあわあ話をしたり、電話でござるか?それをしたり……それに何やら見なれぬ珍妙な身なりをしたものどもがおりました。えたいのしれぬ銀色のずきんをかぶったものや、紺色づくめの服を着たものなどでござる」
それはおそらく消防署の人や警察官の人だろう。図書会議室の件で、いろいろなおとながあつまってきているにちがいない。
「ただ、どうも浅倉先生はあの部屋にはおられぬようでした」
「そう。どこへ行ったんだろうね?用事があるって言ってたから、てっきり職員室にもどっていると思ったのになぁ。図書室の方かな。行ってみようか」
こっそり廊下をとおって図書室にむかおうとすると、玄関から思わぬ人に声をかけられた。
「あら!ナッちゃんじゃない!」
「あっ……カズヨさん。こんにちは」
それは、ナツコの親友ユウとキミノリきょうだいの母親・カズヨだった。
「……カズヨさんがなんで学校へ?」
「それはこっちのセリフよ。きょうは昼から臨時休校になったんでしょ。なのに、なんでこんな時間まで学校にいるの?おかあさんだって心配してるんじゃない?」
しかられているような感じになってしまってシュンとしたナツコに、カズヨはため息をつくようにつづけて
「まったくもう……ところで、キミノリとユウはどこにいるの?」
「えっ?ユウちゃんたち?」
「そうよ。ふたりとも帰ってこないから、わたしも心配になって見に来たんじゃない。来ても学校にこどもの気配がないから心配したけど、ナッちゃんと出会えてよかったわ。ユウたちはどこにいる?」
カズヨはあちらこちらを見まわした。
「……それが、あたしはユウちゃんたちがどこにいるか知らないんです。今までちょっと保健室で横になっていたから。そのあいだに、みんなもう……ユウちゃんたちもいっしょに帰ったと思ってました」
「えっ?」
それを聞くとカズヨは不安げにあたりを見わたしていたが、ナツコの顔を見なおすと、急に顔が青ざめるようにこわばって
「いけない。職員室の先生方に言って探していただかないと……」
あわてて職員室のほうにむかった、そのとき
「――キミノリさまとは、みどりいろの上着をめされたお子ですか?」
「そうよ」
おもわず返事をして、ふりかえったカズヨの表情がかたまった。
その視線のさきには宙にうかんだ、ちいさな金色の竜のすがたがあった。




