29.疑惑の放課後(5)
「――理由はわかりかねますが、浅倉先生が黒の竜の意を受けてあなたさまに接近し、われわれをおびきよせる手だてを組んだ、という可能性も考えねばなりませぬ」
「そんな!だって集めるなら王子候補だけでいいでしょ?わざわざ黒の竜にとって敵であるピカスケまでよぶ必要はない」
「目的はそれがしではなく、銀の竜が持っていた宝珠であったのやもしれませぬ。それがしを危機においこむことによって銀の竜をおびきだそうとしたのでは?実際ナツコどのがこわしてくださらなければ、黒の竜に完全な宝珠をうばわれておるところでした」
「でも、そんな……しんじられないよ……」
と言いつつ、ナツコは自分のむねにもうたがいの心がひろがっていくのを否定できなかった。
あんなにとっつきにくく、じぶんのクラスの子にもまるで興味がなさそうに思えた浅倉先生が、きのうから急に、人が変わったように自分にかかわりだしてきたことをヘンに思ってはいたのだ。
ナツコは、その急に出てきた先生の積極性は、先生自身の「竜を見た」というおどろきと興奮から来たものだと思っていたが、もしかするとそれだけではない、なにかほかに理由があるということなのか。
(でも、やっぱり……)
そんなことぐらいで自分の担任の先生をうたがいきってしまうなんてこと、少女にはできなかった。
「ほかのだれかが黒の竜に情報をもらした可能性も、ないわけではありませぬ。ただし、そうなるとその第三者も竜のすがたを見聞きできる必要があります」
ピカスケの冷静な指摘がくわえられても
「……でも、やっぱり浅倉先生がうらぎるだなんて、そんなことないと思うよ……もし、そんなことがあるのなら……」
ナツコは、しばらく考えると思いきったように言った。
「うん!よし、わかった!それじゃあ『いまから』浅倉先生のところにもどって、ほんとうにそうなのか聞こうよ!そしたらはっきりするよ。いまのままじゃあたし気もちがわるくて、家にかえっても寝られないよ」
ナツコのことばに、ピカスケは目をほそめて
「……されど、それは危険やもしれませぬぞ。もし浅倉先生が黒の竜につながっているとしたら、どんなことになるか……」
彼は、もう完全に浅倉先生があやしい前提でものを考えている。
「そのときはピカスケがあたしのこと守ってよ。あたしに恩があるんでしょ?」
そうナツコが言うと、ピカスケはニッコとわらって
「わかりもうした。それがし武竜のほこりにかけて、なにがあってもナツコどののお身だけはお守りいたす。どこへなりともまいりましょう」




