27.疑惑の放課後(3)
浅倉先生は、なぜナツコと自分が明神ヶ池に飛び出したか、その理由をまわりに聞かれたので
「突風があったとき、たまたま近くにいた平山さんがショックのあまり心が不安定になって学校の外にとび出てしまい、それをわたしが追いかけた……ということにしたの」
と言った。
「そんな、無実の罪をかぶせるようなことしてごめんなさいね」
もうしわけなさそうな担任に対して、ナツコは
「いいんです。どうせ本当のことなんか、だれに言っても信じてもらえないですから。――じゃあ、あたし帰ります」
と小学校にのこった最後の児童として校舎を出た。
その肩には、まるで手のりのインコのようにピカスケが止まっているし、バケツには休眠中の銀の竜がいる。
「ひとりで帰って、だいじょうぶかしら?もうだいぶんと夕方になってしまったけど」
「だいじょうぶです。明るいところを通ります。それにピカスケがいますから」
「そう……なら、おねがいね。わたしもまだ用事がのこっているから」
校門まで見送ってもらいながら、ナツコはこのたった二日ぐらいで急に浅倉先生との距離がちぢまった気がしてふしぎだった。浅倉先生は担任だけど、5年2組のクラスのなかで浮いている。その先生と、いま一番、近しいのは自分かもしれない。
「あーあ、たいへんな一日だった。はやく帰って休みたいよ」
とぼとぼ歩きだしたナツコに
「もうしわけござりませぬ。おわびのしようもありませぬ」
と肩の上で恐縮するピカスケだった。
「ピカスケがあやまることじゃないよ。……それより、いったいどういうことなんだろう?あつめた5人全員がピカスケたちのこと見えなかっただなんて。あの5人の中には王子はいなかったってことだよね」
「――ウウム、そのことでござるが」
ピカスケはうなると
「そのことについては、異なことがござる。銀の竜が休眠まえに言いのこした言葉によると、彼がさきほど、それがしの危機に気づいて、われらがもとにかけつけるとちゅう、あの図書会議室とやらのそばで、たしかに宝珠が反応を見せていたというのです。つまり、やはり少なくともあの部屋周辺に、王子さまはおられたのです」
「……それって、どういうこと?」
ナツコの問いにピカスケは
「考えられることといたしましては、実は王子さまはあの5人の中におられたが、あえてわれら竜を見て見ぬふりをなされたということでしょうか」
「見ぬふり?なんでそんなこと?」
「それは、残念ながら王子さまがわれら竜にかかわりたくないとおぼしめされているのやもしれませぬ。もし、かりに王子さまがご自分が竜の王子であるとご存じで、なおかつふつうの人間のままお暮しになりたいとおぼしめすならば、そのようなごふるまいに出られる……ということも考えられます」
「――そうか。王子になるからといって、みんながみんなよろこぶとはかぎらないもんね」
(あたしだって、家族やユウちゃんたちと、はなれて暮らさないといけないなんて、イヤだものなあ)
「……ピカスケは、もし王子さまが竜の世界に行きたくないと言ったらどうするの?むりやりっこにでもつれていく気?」
ナツコの問いにピカスケは無言になったが、しばらくすると
「そのような無体なまねをする気はござらぬ。あくまで王子さまご本人の意思によることでござる」




