25.疑惑の放課後(1)
「……平山さん、だいじょうぶ?」
ナツコが目をさますと、浅倉先生の顔があった。
おもわず起き上がろうとすると
「無理をしないで。保健の先生の話だと、骨にはなにも異常がなさそうだけど、体を打ちつけて痛みがあるかもしれないそうよ。気持ち悪かったりしない?そのときには病院に行かないと……」
あたりを見わたすと、いつのまにか自分はベッドに寝かされているのがわかった。
「いえ、だいじょうぶです。……ここは、保健室ですか?」
「ええ、そうよ。あの図書会議室のさわぎで学校はてんやわんや。もしかしたら爆弾かなにかの犯罪じゃないかと消防署や警察がかけつけて、先生がたは今も大騒動よ。……でもまあ、あれが竜のしわざだなんてだれにもわからないから、急な突風現象ということで落ち着くでしょうね。
もう授業どころではないから、学校は休校となって子どもたちはみんな下校したわ」
「――ご無事でようございました、ナツコどの」
ベッドの横から小さなささやき声がした。
バケツの水の中から顔を出したのはピカスケだ。ぐんなりとしたようすで、それこそ小蛇ぐらいの大きさにちぢんでしまっている。
「ピカスケ!だいじょうぶだったの?」
「それがしは無事でござる。それよりまたもやナツコどのに危険な目を会わさせしまい、もうしわけないかぎりでござる」
あたまを下げるピカスケにナツコは
「そんなことより、銀の竜は?だいじょうぶだった?」
「弟めは、だいぶんに弱ってしまいましたので、休眠させもうした」
「きゅうみん?」
「ほら、これよ」
浅倉先生が見せたのは水の張ったガラスのコップで、その中に、まるで蚕の繭ほどに身をちぢませた小さな銀色の竜がうかんでいた。
「回復までにはかなりの時間がいりましょう。こやつはこのまま竜の世界に連れかえりまする」
そう言うピカスケ自身も、とてもつかれた口調だった。
「たいへんなことなのね。わたしも竜同士の戦いというものがこれほどはげしいものだとは思ってもいなかった」
コップをのぞく浅倉先生もボロボロの格好になっている。
草や木くずが顔じゅう、体じゅうにはりついて髪もグッチャグチャ。いつもスキひとつないぴっちりした格好をしているので、別人に思えるぐらいだ。




