24.小学校のピカスケ(4)
明神ヶ池の森の上では、すさまじい風と黒雲が雷とともにとぐろをまいていた。
「すごいわね!」
浅倉先生はすっかり興奮しているが、ナツコの見たところ、それはおととい見た、あのたつまきをひきおこすほどのはげしい争いにはなっていない。おそらく、ピカスケが一方的に黒の竜に押されているからだ。
はげしくうねる黒いひかりに対して、金色のひかりはよわよわしいものに思えた。
(ピカスケはまだ傷がいえていないんだ。このままではやられてしまう)
心配しながらナツコが見ていると、浅倉先生がその二匹の竜とはちがう方向を指さしながらさけんだ。
「あっ!あれはなに?」
明神ヶ池そばのしげみからあらわれいでた新たな黒雲が、すごいスピードで二匹の竜の争いに、ぶつかり加わった。
「あれは……銀の竜!?」
そう。それはきらめく銀色のウロコをふるわせる一匹の竜であった。
「兄者!加勢いたしまする!」
「おお、銀の竜!ぶじであったか?それで宝珠は?」
「しかと、この身にござります!」
「こしゃくな銀め!されど、これぞさいわい!いまこそ宝珠をわれによこすのだ!」
「なにを!そのようなわけにはまいらぬ!」
ふつうの人間が聞けば、すさまじい雷鳴のとどろきにしか思えない竜たちのどなり合いも、ナツコや浅倉先生には、はっきりとその内容が聞き取ることができる。
銀の竜がかけつけて二対一となり、たたかいはピカスケたちに優勢になるかと思われたが、しかしやはり銀の竜も体が弱っていた。むしろ黒の竜にねらわれるように攻撃されてしまい、その結果、力つきて上空から地面へドスンと落ちていく。
「だいじょうぶ!?」
ナツコはあわててその近くにかけよった。
「あたしはナツコ。ピカ……金の竜の友だちよ」
銀の竜は息をたえだえにしながらも、うす目を開けて
「これ……この珠を黒の竜にわたしてはなりませぬ……どうか、もってにげて」
そう言うと、のどを動かし、なにやら吐き出した。
それは赤く美しい光を放つ宝石だった。
「……えっ、これをあたしがもっていくの?」
ナツコの問いに力なく銀の竜がうなずく、その上空から
「わらわ!その珠をわれによこせ!」
黒の竜がおそろしい声でさけび、おりてこようとする。
ピカスケが行かさじと胴にくらいつくが、ふりはらわれた。
「ナツコどの!宝珠をお守りください!なんとかお逃げくだされ!」
「こざかしいわ!」
ピカスケをそのトゲつきのシッポで打ちはらうと、黒の竜はナツコを追いかける。
「平山さん!わたしにそれをわたして!」
浅倉先生が手を広げて声をかけるが、そちらにむかう余裕がなかった。
ナツコは木々のあいだをぬって、せいいっぱい走って逃げたが、飛竜の速さにはおよぶべくもない。あっという間に追いつかれて、しまいには木の根っこにひっかかってころんでしまった。
「わらわ!とっとと、その珠をわれによこすのだ!」
ナツコが恐怖にかたまって、こたえもできずにいると、遠くからピカスケの声がした。
「ナツコどの!是非もない!そやつにわたすぐらいならばその宝珠、お割りになってしまってくださいませ!」
「そんな!いいの!?」
「はいっ!」
「やめよ!!」
黒の竜はおそいかかったが、それより少女の行動の方が一歩はやかった。
ナツコは持った宝珠を大きくふりかぶると、いきおいよく下にたたきつけ、そのあざやかな赤い宝珠はまっぷたつに割れた。
黒の竜は怒りにたけったうなり声をあげ、ナツコをそのシッポでなぎとばした。
少女は意識を失った。




