23.小学校のピカスケ(3)
「――こちら、5年2組担任の浅倉です。
次から呼ぶ5人の児童のみなさんは、図書委員会からの特別なおねがいごとがありますので、4階にある図書会議室に集まってください。――5年1組のサイトウカヅキくん、トツカヒロユキくん、同じく5年2組の……」
昼休みになると昨日うちあわせたとおり、浅倉先生が王子候補の5人のこどもたちを放送で呼び出した。
ナツコはあえてその放送に関心がないふりをした。廊下を見ると、キミノリがピカスケの入った袋を持って図書会議室に向かうすがたがあったが、それにも知らんぷりを決めこむ。
そして、図書会議室から黒の竜を遠ざける意味もあって、ひとりで図書室とは反対側の1階のバルコニーに出た。
ほんとうは、ひとりではなくユウを誘いたいところだったが、いまだ機嫌のなおらない彼女をさそいだすことはむずかしかった。
(ああ、つらいなあ。――でもしかたない。あたしがいなければ黒の竜もあやしく思わないはずだし、まさか今の放送で王子候補を集めたとは思わないだろう)
すこしづつ葉の色が赤くうつりつつあるカエデや、白い花がつきつつあるギンモクセイの木々を見ながらナツコは物思いにふけった。
(ああ、5人のうち、いったいだれが本物の竜の王子なんだろう?それがはっきりする場面にいられないのは残念だなぁ。推理小説だと、まさかこの子が、という子が犯人なんだけど……って、王子さまと事件の犯人とはちがうよね。
――サイトウくんはなかなかのイケメンだよな。ハルオカくんはよく知らないけど、ひょうきんものそう。トツカくんはおっとりしてそうだけど、意外とあんな子が王子なのかも……)
いろいろ予想は立てるが、どれもしっくりこない。そうしているうちに時間はすぎていく。
(ああ、もうすぐ昼休みもおわりだ。もう王子がだれか、はっきりわかったころだろう)
ナツコがおもむろに教室にもどろうとした、ちょうどそのとき
――バンッ!!
ガラスが割れるものすごい音が学校中になりひびいた。そしてこどもたちの悲鳴。
(なんだろう!?あの音は……図書室の方だ!)
ナツコは校庭を走って、校舎の反対側にある図書室の方に向かった。
見上げると、図書会議室の窓がむちゃくちゃにこわれているのがわかった。すさまじい風がふきつけたのだ。
そしてその上空には、はげしい雷をともなった黒雲が、校庭うらの明神ヶ池
にむかってすすんでいく。きらめくウロコがちらちら見える。
(ピカスケと黒の竜だ!)
いったいどうしようと思っていると、校舎から浅倉先生が飛び出してきた。
「ああ!平山さん、しまったわ。黒の竜よ!こどもたちに金の竜を見せようとしたら、黒の竜が不意にあらわれておそってきたの!おかげで図書会議室の中はぐちゃぐちゃよ。金の竜が黒の竜にくらいついて外に出ていってくれたけど……どこに行ったかしら?」
「明神ヶ池の方です。それよりみんなは?ケガとかしてないですか?」
「だいじょうぶよ。みんな突然のことでショックを受けているけど、ケガはない。早川先生がかけつけて、見てくださっているわ。それより竜は?追いかけましょう!」
「えっ?あっ、はい」
浅倉先生は、今までの学校生活では見せたことがないような熱心さで、ナツコをせかして二匹の竜のあとを追いかけた。




