22.小学校のピカスケ(2)
昨日の晩、助けられたお礼を言いに来たキミノリに、ナツコがこっそりたのんだのはこれだった。
「――おねがい、キミノリくん。なにも理由は聞かずに、あたしの代わりにこのポリバケツを学校に持っていって。それで、昼休みになって放送が入ったら図書会議室にもっていって、浅倉先生にわたしてほしいの」
これがナツコの考えた作戦だった。
きのうの一件で、もうキミノリくんが竜の王子でないことはわかっている。まさか、その子にピカスケをはこばすとは黒の竜も考えないだろうと思ったのだ。それに、ナツコが図書会議室に行きさえしなければ、放送でこどもたちが集められてもあやしまれることもない。
そんなヘンなお願いに「ナツコさま」に命の恩義を感じている真っ最中のキミノリは、一も二もなく、だまってしたがってくれた。
むしろ、そばにいて何も知らされていないユウをだまらせておく方が大変で
「ねえねえ、いったいなんなのよぉ?」
と、しつこく聞いてくる。
「うーん。だから今はナイショとしか言えないよ。図書委員会の仕事で、浅倉先生もちゃんと知っていることだから……」
「それがヘンじゃない。図書委員会の仕事で浅倉先生が出てくるなんて。浅倉先生なんて教室で会うんだからナッちゃんがわたせばいいじゃん。だいたい、あんなあたしたちと付き合いの悪い先生が、急にキミに接触してきたっていうのも、おかしいんだよなぁ……
ねえ、キミノリ。それ爆弾かなんかじゃないの?持っていくとちゅうで爆発なんかしたりしない?」
「もぉ。そんなヘンなこと言わないで。ちゃんとした図書委員会の仕事なんだから。理由は……いつか、またあらためて言うよ」
「ふ――ん、ナッちゃんがあたしにナイショごとをつくるだなんてね。ショックだよ、この世でたった一人の親友だと思ってたのに。あたしもう、イジけるから」
そう言って顔をそむけるユウに、ナツコはどうしたらよいかわからない。
「そんなこと言わないで、ねえユウちゃん」と話しかけても
「知らない。もう話しかけないで」とそっぽを向かれた。
そして本当にそのあと、ユウはむくれたまま学校につくまで一言も発さなかった。
思わぬ親友との関係の悪化にナツコは泣きそうになった。
(もお。王子の探索だなんて何もいいことがない。こわい思いはするし、友だちにはウソを言わなきゃいけないし。……これで本当にユウちゃんにきらわれるようなことになったら、ピカスケと竜の王子のこと、一生うらんでやるんだから……)




