21.小学校のピカスケ(1)
次の日の朝、いつものようにナツコはユウ・キミノリ兄妹といっしょに学校に向かった。
ただ、ふだんとちょっと違うのは、いつもならやかましいキミノリが、むだ口もたたかず静かにふたりの女の子の後からついてくることで、それがおかしいのかユウはニヤニヤしていた。
彼女はうしろの兄に聞こえないように、小声でナツコに話しかけた。
「――ナッちゃん、昨日どうだった?みまつ屋のケーキ?」
「うん?ああ。おいしかったよ」
「でしょう?あたしが言ったの。ナッちゃんにお礼するなら、あそこの苺ショートを持っていったらいいって。ナッちゃん、あれ好きだもんね」
たしかにみまつ屋のケーキは美味しかった。
ただピカスケの口には合わなかったのか、苺を一粒食べさせたら
「おひょっ!……これは、なんと酸い(すい)!ヒゲの先がしびれまする!」
と、さけんでいたが。
「きのうはたいへんだったんだから、キミノリ。命を助けられて『もう自分は一生ナッちゃんには頭が上がらない。死ぬまでおつかえしなくちゃいけない』って。いま、ナッちゃんに火の中に飛びこめって言われたら飛びこむよ、あいつ。なんせ単純なんだから」
「そんな……なにもたいしたことなんてしてないのに。なんだか逆にわるいことしちゃったみたい」
「いいのいいの。当分アゴで使ってやればいいのよ、あんなやつ。どうせあんなこと言っているのも今だけで、命をたすけられた恩義なんてすぐわすれるんだから」
「そうかな?」
「そうよそうよ。なにせ、うちの兄貴はちょっと『人間ばなれ』した感性してるからね。……きのうの夜だって、わけわからない奇声を発しながら寝返りうってたもの」
「ふうん」
ユウの言葉に少しドッキリしながら、ナツコはふりかえってキミノリを見た。
(……でも、そんなことはもうないよね)
たしかにちょっと変わったところはあるかもしれないが、キミノリが竜の王子ではないことは昨日、黒の竜が見えなかったことではっきりしている。心配はいらないはずだ。
「……それよりナッちゃん、あのキミノリに持たせたの。いったいなに?」
声をひそめてたずねるユウに、ナツコは言葉をにごす。
「えっ?……うん、いや、だからそれはナイショだよ、聞かないで」
「なんだよぉ?気になる~」
不服そうに後ろをふりかえったユウの視線の先には、キミノリがぶら下げた体操服入れがあった。
ただ、その袋は体操着が入っているにはおかしなふくらみ方をしているし、だいいち今日、5年3組に体育の時間は無い。
実は、その体操服入れの中にはふた付きの小さなポリバケツが入れてあった。そして、その中には息をひそめた金の竜・ピカスケがかくれているのだ。
「――ウウム。本来、大空を自由にかけまわり、雲や風をもあやつるそれがしが、このようなゴミ箱ふぜいに身をひそめねばならぬとは、なんたる恥辱。ナツコどの、このことは他のものに決しておっしゃいますな」
ほこりたかき金の竜は泣く泣くこの作戦を受け入れ、しずかにしている。




