17.竜の王子候補(7)
ナツコはドキッとした。
「……どうもほかの人には見えていないようだし、わたしの気のせいかとも思ったけど……でも平山さん、あなたは、たしか、あれに話かけられていたわよね?そしてあなたには、あれが見えていた」
ナツコは本当にびっくりした。
竜を見ることのできる人間はそんなにいないとピカスケに言われていたので、なんとなくあの黒の竜の襲撃も、だれにも気づかれていないと思いこんでいたのだ。
まさかこんな近くに竜を見ることができる人がいるだなんて……しかも、よりによってこの先生……。
しかし、見られてしまったものは仕方ない。先生にウソをつくわけにもいかないので、ナツコは正直に言うことにした。
「……あれは竜です」
浅倉先生はあからさまにイヤな顔をした。
「竜?……そんな、なに言っているの?そんなもの本当にいるわけがないでしょう?」
「……でも先生、見たんでしょう?」
先生は言葉につまった。そして、さもしぶしぶというふうに
「――そうね。まあ、それでは百歩ゆずって、あれがなにかの未確認生物だということは認めましょう。それで、どうしてそれが平山さんやわたしには見えて、ほかのひとには見えないのかしら?」
「知りません。なにか体質みたいなものではないでしょうか?よく言うオバケとか幽霊が見えるみたいな……」
「わたしは、この年になるまでオバケも幽霊も見たことはありません」
目を三角につり上げて浅倉先生は言った。
たまにこういう顔をするから、こどもはこの先生が苦手だ。
ナツコはたじろぎながら
「わたしもオバケは見たことがありません。竜だって昨日はじめて見ました。そのとき会った竜が一匹、今ウチにいます」
「ウチに?あんな大きいものが?」
「小さくなった状態でです。彼らは自分の大きさを変えることができるんです」
ナツコは正直にすべてを話した。明神ヶ池でのピカスケや銀の竜、黒の竜との出会い、そして彼らが竜の王子を探しに来ているということ。そして、その竜の王子はこの小学校の5年生・10月生まれの中にいるということも。
なんといっても浅倉先生は今のところ、竜を見ることのできる唯一のおとなで、しかも5年生のクラス担任だ。王子探しに協力してもらえるとしたら、これぐらいたよりになる人はいない。
ナツコの話を聞き終えると、浅倉先生はしばらく、ぶすっとした顔をしていたが、おもむろに口を開いた。
「……信じがたいことだけど、とりあえず信用するという方が、問題が少なそうね。もし私とあなたが見ているその……竜とやらがまぼろしで、王子候補のこどもが狙われているなんてことがすべて妄想だとしても、その王子候補たちの安全を図る動きをしてこまることといえば、あなたとわたしが他人に、ちょっと脳に問題があると思われることだけだもの。たいした被害ではないわ」
まわりくどくて分かりにくい言い方だが、とりあえず協力はしてくれるらしい。




