14.竜の王子候補(4)
その態度は保護者のなかでも問題視されているらしくて、ナツコも母親が
「もともとは教師になる気などなかったらしいわよ。他の就職がうまくいかなかったから、たまたまうけた採用試験にとおったのだと……ちょっとしたアルバイト程度の気持ちで来てらっしゃるのでしょうかね?それではこまるわねえ。どうせ長谷川先生がもどってらっしゃるまでのつなぎという気だから、おざなりなのよ」
などと、同級生のおかあさんと話しているのを聞いたことがある。
だから、ナツコも「竜の王子探し」だなんて、ロクに信じてもらえやしない相談をする気になんかなれないのだった。
(そんなことあの先生に言ったら、そのあとクラス名簿からあたしの名前が消されかねないもの……やっぱり、あたしひとりで探さないとしょうがないか)
しかし、そうは言っても人見知りぎみのナツコに、ひとりで王子候補たちに声をかけることはむずかしい。
たとえば同じクラスのカワバタくんに話をしようと思っても、彼はふだん男子でグループになっているので言葉をかけるきっかけすらうまくつかめない。
どうしようかなあと迷っているうちに昼休みが過ぎ、そうじの時間になってしまった。
(うーん、むずかしいよ、ピカスケ。どうせキミは今ごろ、のんきに金魚鉢のなかで、ひるねでもしてるんだろうなあ。いくら命の恩竜のたのみでも、いやになっちゃうよ)
教室でホウキを掃きながらなげいていると、ふと窓から、キミノリがひとりでゴミ捨てに焼却炉に向かうのが見えた。
(チャンスだ!)
ふりかえると、ユウはこちらに背を向け黒板をふいている。彼女がいっしょにいない今のうちに、その兄が竜の王子かどうか確認しておいてしまおう。焼却炉前なら人も少ないから、まわりを気にせずにすむ。
キミノリ相手になら、竜の話をして、もし王子じゃなかったとしても(それはたぶんまちがいない)、ちょっとした冗談話としてごまかせることができるとナツコは思っていた。
(だってキミノリくん自体が、年中ヘンなことばっかり言っている子だもの。あたしが少しヘンなこと言ったくらい、気にしないでしょ!)
ナツコはゴミをあわてて掃き集めると
「ちょっとゴミ捨てに行ってきます!」
と教室を飛び出した。
そのすがたを
「――ナッちゃん、なに、あわててるの?」
「さあ……今日はなんだかヘンなんだよ」
ユウや友人たちはふしんげに見送った。
「――やあ、キミノリくん。ゴミ捨てかい?」
ナツコはキミノリに走って追いつくと今度はわざとゆっくり歩いてついていき、さも、たまたま会ったと、よそおって声をかけた。
「うん?ああ、なんだ、ナッちゃんか?」
「キグウだね、あたしもだよ」
横にならぶナツコだったが、キミノリはそのゴミ箱をのぞくと
「なにが奇遇だよ。ゴミもちょっとしか入ってないじゃないか。……ははん、さてはゴミ捨てにかこつけて掃除サボってるんだろう?いけない子だなあ」
「ちがうよ」
まさか、キミに聞きたいことがあったからついてきたとは言いにくい。
6人の候補のうちキミノリがいちばん聞きやすい相手だとナツコは思っていたけど、いざとなると、そのキミノリにでも、どう話を切り出したらよいかわからなくなった。
(なにせ、話がとっぴすぎるもんなあ)
しかし、そんなふうにまごついているうちに、もう焼却炉についてしまう。
(ええい!思いきって言ってしまおう!)
「……あのさ、キミノリくんってりゅ……」
しかし、その問いはみなまで言えなかった。
急にまわりの空気がギューンと冷えだした……と思った次の瞬間、にわかに焼却炉の中の炎が爆発したように燃え上がったのだ!
おもわずナツコが見上げると、なんと焼却炉の煙突に、きのう出会った黒い竜がからまって尾をふっている。
そのするどい視線の先にあるのはキミノリくんだ。




