13.竜の王子候補(3)
6人のうち、気軽にそんなことがたずねることができるのは(キミノリは別として)せいぜい同じクラスメイトのカワバタくんくらいだ。
そのカワバタくんにしたところで、別に仲が良いというほどでもない。
「ねえ、カワバタくん」
「えっ、なに?平山さん」
「きみって、もしかして竜の王子かな?」
「……はあ?なにいってんの?あなた。おーい、みんな、平山さんがヘンなこと言いだしたぞぉ。気を付けろぉ」
そんなふうに、ちょっとアブナイ人あつかいをされてしまうのがオチだ。
竜の王位も大事かもしれないが、ナツコにとってはそれよりも学校生活を無事に過ごしていくことの方が大事だ。小学校、そしてその先の中学校とまだまだ長く続く学校生活を、おかしな女の子あつかいされては、たまったものではない。
「――ナッちゃん、いったい何ボーッとしているの?」
「えっ?あっ、うん。……いや、ちょっと考えごとをしてて」
「なにが考えごとだ。ナッちゃんが考えることだなんて、どうせまた『今日の給食のメニュー、なんだろうな』っていうことぐらいだろ?」
「うるさい兄貴だな。だまっていろ」
後ろからのへらず口に、まさかこんなガサツな男の子が王子さまではないだろうとナツコは思ったが、一応は調べないといけない。
でも、それはユウに決して気づかれないようにしなければ。キミノリはともかく、ユウにヘンに思われるようなことだけは、是が非でもさけなければ。
それを考えるとナツコは憂鬱だった。
学校についてからもナツコは竜の王子探索をどうするかに気が行って、なかなか勉強に集中できなかった。
一時間目の国語の時間、いつもならとくいの教科書の朗読で、三度もつまづいてしまったほどだ。
担任の浅倉先生はなにも言わなかったが、ナツコは本を読むのがじょうずなことを知っているまわりのクラスメートはおかしがっていた。
ほんとうは浅倉先生に正直に事情を打ちあけて、竜の王子をしらべてもらうのが、いちばんいいのかもしれないのだけど、ナツコは気がすすまなかった。
なぜなら、素直に言うとナツコは浅倉先生のことがニガテなのだった。
いや、実はそれはナツコだけではなくて5年2組の大半のこどもたちが感じていることだ。
浅倉先生は、六月から臨時で来た、まだ若い女の先生なのだけど、どうもクラス担任としてやってきた最初から、とっつきにくい感じのひとだった。前の担任の長谷川先生がお母さんのようにあたたかくつつみこむタイプの先生だったので、みんなとまどっている。
授業などは、たしかにそつなくこなしていくのだが、どうも仕事としてわりきっているのか、必要なこと以外はなにも言わず万事が淡々とすすんでいく。
こどもと仲良くする気がないのか、よけいなおしゃべりもせず、教室でもりあがるところもない。
楽しいか楽しくないかで言ったら、楽しくない方の先生だった。




