12.竜の王子候補(2)
今年の春、引っこしてきた佐々木兄妹のうち、ユウの方がたまたま小学校でもナツコと同じクラスとなり、仲良くなれたことは自分の11年の人生の中でもっとも幸運なことだ、とナツコは本気で思っていた。
そんなユウにくらべて兄のキミノリの方は、いまいちナツコにもつかみきれないところのある子だった。
のんびりしているというか、ボサッとしているというか、とにかくふだんからだらけている。よく見ると顔もまあまあイケメンなのだが、そのにじみ出るだらけた雰囲気が素材のよさをそこねていた。
「ほら、キミノリ。もう行くよ、遅刻しちゃう」
「え~、まだいいだろ」
「いいわけないだしょ。ナッちゃんまで遅刻させる気?」
こんなふうに、いつまでもモタモタしている兄を、しっかりものの妹がむりやり追い立てる……というのが、ナツコの見る佐々木家の毎朝の光景だった。
「えっ!?ナッちゃん、昨日の明神ヶ池のたつまきに出合ったの?」
ナツコとユウはならんで歩く。その数歩あとからキミノリがボサッとついて歩く。それが三人のお定まりの通学スタイルだった。
「――あのたつまき、あたしとキミノリも遠くからだったんだけど見てたんだよ。すごく大きそうに見えたのに、だいじょうぶだった?」
「うん。だいじょうぶ」
もちろんナツコにしてみれば、本当はだいじょうぶだなんてとても言える状況ではなく、ユウに言って聞かせてやりたい話はいっぱいあったのだけど、ピカスケに、不必要に人にこの話はしないようにと言われていたので、だまっていることにした。
「なにせ、たいていの人間はわれら竜のことなど、見ることも感じることもできませんのでな。言って聞かせるだけ、おかしなことになるだけでござる。それに、どこで黒の竜が耳をそばだてているや知れませぬ。なるだけ内分にお願いいたしまする」
そんなナツコの気も知らず、うしろからキミノリはのんきな口調で
「いいなぁ、ナッちゃん。たつまきをそばで見られただなんて。写真とか撮らなかったの?」
「ううん、撮ってないよ。あたし、そんなの持ってないもの」
(たとえ持っていたとしても写真を撮るような余裕はなかったよ)
「何うらやましがっているの?キミノリ。ナッちゃんは危ない目にあったんだから。言葉に気をつけなさい」
「ほ――い」
とぼけた兄にツッコむ、しっかりとした妹。
佐々木兄妹のいつもどおりのやり取りをほほえましくながめながら、ナツコは、いったいどのようにこれから竜の王子を見つけ出せばよいか考えていた。
王子探しの決め手となる宝珠の行方が銀の竜とともにわからない今、きのう「かむ三小だより」で見つけた王子候補の6人の男子、彼ら一人ずつにそれとなく聞いて回るぐらいしか手が思いつかない。




