11.竜の王子候補(1)
次の日の朝、朝ご飯を食べるとナツコはピカスケをおしいれにかくしたまま、家を出て、同じ団地にある佐々木家に向かった。
この兄妹の家に寄ってから、いっしょに登校するのがナツコの、今年からの習慣だった。
「おはようございます、カズヨさん」
「おはようナッちゃん。ちょっと上がって待っていてね。キミノリの用意がまだなの」
「はい、おじゃまします」
ナツコを明るくむかえてくれたのはカズヨさん。キミノリ・ユウ兄妹の母親だ。
そのうしろからユウが顔を出す。
「おはよぉ、ナッちゃん。――ねえ、カズヨさん。今日学校に持っていく、学内バザーの申請書、保護者印わすれてるよ」
「あら、そうだった?いま書くわね」
佐々木家は変わっていて、家族全員がたがいに名前でよびあう風習になっている。こどもが自分の親を名前でよぶのだ。
佐々木家に通いはじめたときナツコはそのことに面食らったが、今では慣れてしまって、自分までカズヨさんを名前でよぶようになっていた。(自分の母親・ミヨコを、その名前でよぶことなど一度もしたことがないが)
「キミノリ、ナッちゃん来たよ。早くごはん食べ終えてしまいなさいよ」
用意をすっかりととのえて、あとはもうランドセルをせおうだけでよいユウにくらべてキミノリは、いまだパジャマすがたでパンをムシャリムシャリとかじっている。
「はやすぎるんだよ、ナッちゃんは。そんなにあわてなくとも遅刻なんてしやしないのに。……ぼくは、きのうの夜はよくねむることができなくて、ねむいんだ」
クシャクシャの寝ぐせ頭をかきながら、キミノリはいかにもだるそうにモニョモニョと話した。
「なに言ってんの?グースカいびきかいてねてたじゃない、近所めいわくな」
と、ユウに言われても
「きみのような鈍感な女子には、兄のデリケートななやみはわからんのだ」
と、まったく動じずパンをかむ。
「なに言ってやがる。なやみかたなんて知らないくせして」
ユウはいつもどおりカラカラと、快活にわらうと、その長くしなやかな手でキミノリの頭をつついた。女の子だけど、その背は兄のキミノリより高いくらいだ。
次の日の朝、朝ご飯を食べるとナツコはピカスケをおしいれにかくしたまま、家を出て、同じ団地にある佐々木家に向かった。
この兄妹の家に寄ってから、いっしょに登校するのがナツコの、今年からの習慣だった。
「おはようございます、カズヨさん」
「おはようナッちゃん。ちょっと上がって待っていてね。キミノリの用意がまだなの」
「はい、おじゃまします」
ナツコを明るくむかえてくれたのはカズヨさん。キミノリ・ユウ兄妹の母親だ。
そのうしろからユウが顔を出す。
「おはよぉ、ナッちゃん。――ねえ、カズヨさん。今日学校に持っていく、学内バザーの申請書、保護者印わすれてるよ」
「あら、そうだった?いま書くわね」
佐々木家は変わっていて、家族全員がたがいに名前でよびあう風習になっている。こどもが自分の親を名前でよぶのだ。
佐々木家に通いはじめたときナツコはそのことに面食らったが、今では慣れてしまって、自分までカズヨさんを名前でよぶようになっていた。(自分の母親・ミヨコを、その名前でよぶことなど一度もしたことがないが)
「キミノリ、ナッちゃん来たよ。早くごはん食べ終えてしまいなさいよ」
用意をすっかりととのえて、あとはもうランドセルをせおうだけでよいユウにくらべてキミノリは、いまだパジャマすがたでパンをムシャリムシャリとかじっている。
「はやすぎるんだよ、ナッちゃんは。そんなにあわてなくとも遅刻なんてしやしないのに。……ぼくは、きのうの夜はよくねむることができなくて、ねむいんだ」
クシャクシャの寝ぐせ頭をかきながら、キミノリはいかにもだるそうにモニョモニョと話した。
「なに言ってんの?グースカいびきかいてねてたじゃない、近所めいわくな」
と、ユウに言われても
「きみのような鈍感な女子には、兄のデリケートななやみはわからんのだ」
と、まったく動じずパンをかむ。
「なに言ってやがる。なやみかたなんて知らないくせして」
ユウはいつもどおりカラカラと、快活にわらうと、その長くしなやかな手でキミノリの頭をつついた。女の子だけど、その背は兄のキミノリより高いくらいだ。




