10.ピカスケ(6)
「問題ってほどじゃないけど、ちょっといちいち呼びにくいなあ……ねえ、名前がないのなら、あたしがあなたに名前を付けてもいいかな?」
「それは別にかまいませぬ。人間さまがそうお呼びになりたいのなら」
「もう!あたしの名前は『人間さま』じゃなくて、ナツコよ。今からはそう呼んで。
あなたの名前はそうねぇ……きれいに光っているからピカスケ。そうピカスケがいいわ。あなた、まるでむかしのさむらいみたいな物言いするからね」
「ピカスケでござるか……いやはや、どうも珍妙なものですなあ」
「なに?もんくでもあるの?」
「いえ、そんな……この世界におりますあいだは、それがしはピカスケとして、すごさせていただきまするぞ。にん……いや、ナツコどの」
その夜、かむのに住むひとりのこどもが、夜中じゅう、えたいのしれない体のうずきを感じて、苦しめられていた。
前々から、はげしい雨や風が吹くのを見ると体が落ちつかなくなることはあったが、今日は特にひどい。どうも夕方に明神ヶ池あたりであった、たつまきを見てしまったのがよくなかったらしい。
たつまきはすごく遠くに発生していたから、はっきりとはわからなかったけど、そのなかに、まるでなにか長い蛇のような生きものがいるように見えて、それからずっと、こどもの心と体はざわついていた。
(まさか。あんななかに生きものだなんて。気のせいだ)
そう思いつつも、そのせいで自分の中にいる、もうひとつのなにものかが目をさまして、さわぎ出しているのはまちがいない。
ねむることもままならず、ふとんのなかで、ねがえりを打ちつづけるこどもの背中には、うっすらと、光りかがやくウロコがうかびあがっていた。




