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⑧幸せな結末と、なぞなぞ


ある冬のことでした。

セーラがお買い物のために街に出ると、号外(ごうがい)新聞(しんぶん)(くば)られていましたので、セーラもそれをもらいました。


そこには素敵なニュースが()っていたのです。


家に帰ると、セーラはその記事を持って、嬉しそうにクリスの元へ行きます。


「お兄さん、領主様のところに、子供ができたそうよ!」


「そうか……それは良かったなぁ」



マリーはあのあとすぐ、領主様の勧める相手と婚約(こんやく)をしました。


マリーの気持ちもすぐには変わりませんでしたが、勧められた相手のひとりが、とても真面目で優しく、働き者だったので、その人と結婚することにしました。

……なんだかクリスというよりも、セーラに似ていますね。


結婚をすると決めたマリーでしたが、相手はマリーの気持ちを大事に思い、「まずは充分(じゅうぶん)な、婚約期間(こんやくきかん)をもうけましょう」と言ってくれたのです。



クリスにとって、マリーのことは、今では素敵な思い出です。

マリーが幸せなニュースは、いつも、春風のように、クリスの心をやわらかくなでてくれます。


時間は色々なことを、思い出に変えていきます。


ですが、かつてのセーラとの思い出が色あせることはなく、今のセーラとの思い出ばかりが、増えていきました。


それは時に、重い雪のように、クリスの心を見えなくするのです。




マリーの、懐妊(かいにん)のニュースが書かれた新聞を見て、クリスはマリーが『黄金のリンゴ』を持たせてくれたことを、思い出しました。


「あなたはあなたの幸せを。 これはふたりに」


あの時のマリーの声に、クリスの目からは涙がひとしずく、ポロリとこぼれました。

セーラはビックリして、オロオロと「どうしたの?」と聞きました。


「……セーラ、君の幸せは?」


クリスはセーラの質問には答えず、そうたずねます。


クリスの幸せは、セーラの幸せ。

セーラが変わっても、それは変わりません。


なのにまた、勝手に決めてしまおうとしていたのです。


クリスがなにを思って泣いて、こんな質問をしたのかなんて、セーラにはわかりません。

だから、自分の気持ちのとおりに、答えるだけです。


「わたしの幸せは、お兄さんが幸せになることよ」


その答えに涙をあふれさせながら、クリスはセーラを抱きしめました。


セーラは、ドキドキしながら戸惑(とまど)いました。

なんで抱きしめられたのか、わかりませんが、抱きしめ返しても、いいのでしょうか。


大好きだけど、お兄さんなのです。

困って、きらわれてしまわないでしょうか。



その時です。



急にリュックの中の『黄金のリンゴ』が光り、部屋の中に冷たい風が、ビュウッと吹いたのです。


光の中で、キラキラと氷の(つぶ)()って、()けていきました。


『馬鹿な子ね。いいこと? ……』


冬の魔女の声が、聞こえます。

それは、クリスを小馬鹿にしながらも、どこか優しい声で、よく聞き取れませんが、なにかを言っています。


ですが、セーラの声に、クリスは気持ちを持っていかれてしまいました。


「クリス」


セーラが名前を呼んだのです。

クリスのことを「お兄さん」と呼んでいた、セーラが。




「思い出したわ。 わたし、全部思い出したのよ……」


それは、とても不安げな、か(ぼそ)い声でした。


セーラは不安でたまりませんでした。

思い出したら、今のセーラじゃなくなってしまいます。そんな自分でも、クリスは受け入れてくれるのでしょうか。


だって、クリスは「お兄さん」だと、わざわざ嘘を、ついたのですもの。

だって、クリスはかつて、自分(セーラ)を妹のように、思っていたのですもの。


「セーラ」


クリスは泣きながら、セーラをもう一度、強く抱きしめました。


「ボクの幸せは、君の幸せなんだ」


ずっといっしょにいてください、とクリスは言いました。


セーラは言葉が出てきませんでしたが、かわりにギュッとクリスを抱きしめて返したのです。





魔女は、セーラの大切な『クリスとの思い出』を、もらったりなどしていませんでした。


冬の谷の底は、なにもかもを凍らせます。


身代わりになって、谷底に落ちる途中(とちゅう)で、セーラの心の一部も、凍ってしまったのです。


魔女はなんでもできるようですが、できないこともあるし、わからないこともあります。

ただそれが、人間よりもずっと、少ないだけ。


魔女には、セーラの身体を戻せても、凍りついた心までは戻せませんでした。



なんで魔女が嘘をついたのか。

それは魔女にしかわかりませんが、おそらく理由のひとつは、『黄金のリンゴ』の力を見たかったからだと思います。



『黄金のリンゴ』は魔女も知らないほどの、魔術のかかった道具です。


『黄金のリンゴ』は持ち主を、自分で選びます。それまでは、ただの綺麗な、(かがや)くリンゴでしかありません。


持ち主に、クリスを選んだことは、魔女にもわかりました。

そして、クリスが今、この時に、『黄金のリンゴ』の魔術を発動させることも。


魔女はそれを見たかっただけ。

少なくとも彼女自身は、そう言うに、違いありません。




『黄金のリンゴ』にかけられた魔術は、いったい、なんだったのでしょうね?


もちろん魔女は知っていますが、それを聞いても、きっと、「馬鹿な子ね」という答えしか、返ってこないと思いますよ。



☆おしまい☆




なんとか終わりました!

応援してくれた方、お読み頂いた方、皆様ありがとうございました!°+♡:.(っ>ω<c).:♡+°


☆☆☆☆☆(´・ω・`)ショボーン

↓↓↓↓↓

★★★★★♡☆(´▽`)☆♡

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― 新着の感想 ―
[良い点] 計算された見事なドラマでした。 クリスの冒険、セーラの愛情、マリーの愛もどれもこれも絡み合い重なり合い、ハッピーエンドを作りました。 黄金のリンゴの前の持ち主の思いは魔女にも届いていたので…
[良い点] ああ・・・! これはドラマチックですね。 登場人物たちが皆美しいです。そのなかでもブレずに進んでいくクリスが主人公ですね。 (私の脳内ではハウス世界名作劇場の絵で再生されています) [気に…
[一言] 出演者がみんな自分のことより大切な人のことを優先して考える優しい世界でした。 けれど、いざ、みんながみんな他人の幸せを優先する様を見せられると、「とりあえず自分が幸せになりなさいよ」と言いた…
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