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⑥クリスとマリー

ごめんなさい、編集途中で寝落ちし、この前の、5部分を途中でUPしてしまいました!


副題が⑤しか書かれてないものを読んだ方は、お手数ですが、後半をもう一度読んだ方がいいかと思います。


大変申し訳ありませんでした!


もう寒くないのに、凍ったように身体を固まらせたクリスがようやく出した声は、とても小さく、(ふる)えていました。


「セーラは……どこに……?」


領主様がそれに答えようとした、矢先のこと。

マリーが立ち上がり、クリスを(にら)みつけたのです。


「まず口にする、女性の名前がセーラなの? あなたには(あき)れた。 もう顔も見たくありません。 あなたと結婚はできないわ」


一息(ひといき)に、強い口調(くちょう)でそう言うと、まっすぐな美しい姿勢(しせい)で、部屋を出ていってしまいました。


クリスはショックを()けるより、ただただビックリしましたが、それよりも今は、セーラのことが気がかりでマリーを()いかけません。


領主様は、なににかわからないため息をひとつついてから、なにがおこったかを話してくれました。




なんでも2日前、セーラの身体のまわりが突然光ったそうなのです。


あっという間に強く、大きくなった光は、セーラの身体をつつみこみ、いっしょにいたマリーは(まぶ)しくて目をつむってしまったほど。


その時間は、ほんの数秒(すうびょう)でした。

ですが、マリーが目を開けた時には、もうセーラの姿はなく……


そこには、かわりにクリスが倒れていたのです。




「クリスくん、君はペンダントを持っていた、と言ったね? それは、魔術(まじゅつ)のかけられた道具だ」


人間は魔女のように魔法は使えません。

そのかわりこの国では、たくさんの人の様々(さまざま)研究(けんきゅう)によって、魔法に()たものを使えるようになりました。それが『魔術』です。



魔術は、売られていますが、なんでもできるわけではないうえ、お値段(ねだん)高額(こうがく)です。


また、魔術には危険がありました。

もし(やぶ)られてしまうと、魔術をかけた『魔術師(まじゅつし)』と呼ばれる人に、(かえ)ってきてしまうのです。


だから売られている魔術は、使い切りのものばかりです。

一回使えば()わりなので、魔術師も安心ですもの。



クリスのかけていたはずのペンダントがないのは、そのせいに違いない、と領主様はおっしゃいます。


セーラがいなくなって、かわりにクリスがいたのです。

魔術が使われたのだろう、と思って調べると、街の裏手にある魔術師のお店で、セーラがペンダントを買っていたことが、すぐにわかりました。


すぐに、というのも、セーラがお給料が出たあとのお休みの日には、(かなら)ずそこに出かけていたためです。


魔術のかかった道具は高いので、貯めていたお金では足らず、セーラはお店の人におねがいして、支払(しはら)いをわけてもらっていたのだそう。


だから、お店の魔術師も、セーラのことをよく覚えていました。



セーラが買ったのは『身代(みが)わりのペンダント』。


道具と契約(けいやく)をした人が、一度だけ、身につけている人の身代わりになってあげれるのです。



クリスも振り返ってみれば、思い当たることは、たくさんありました。


あんなに泣きわめいたのに、「3日待って」と言ったあとは別人のようで……

そのあとは、(おだ)やかに、いつものように(せっ)してくれた、セーラ。


クリスが初めて目にした、形見の品。


形見の品にしたのは、きっとセーラの大事な品ならば、クリスが肌身(はだみ)(はな)さず、なくさないように大切につけていてくれると、そう思ったのでしょう。




「そんな……」


クリスは真っ青になって、言葉をつまらせました。



クリスは魔女にペンダントをあげませんでした。

セーラの自分への想いは知りません。でもセーラが無事をいのって、大切なペンダントをあずけてくれたことぐらい、ちゃんとわかっているつもりだったから。



自分はなにもわかっていなかったのだ、と、クリスはようやく気づきました。

わかっているつもりになっていただけでした。


『馬鹿な子』という魔女の声が頭によぎります。


魔女はやっぱり、なにもかもわかっていたに違いないのです。




セーラを探しに行く、とクリスは言いました。

領主様はクリスがそう言うだろうと思っていましたので、説得をしてやめさせようと考えていました。


ですが、そうはしませんでした。

マリーが『結婚しない』とハッキリ言ったからです。

なんでマリーがそう言ったか、領主様はなんとなく、わかる気がしました。


だからクリスには、マリーと会って、もう一度話をするように、と言いました。




セーラがいなくなったとき、マリーはすぐに、セーラがクリスのために、なにかしたのだと思いました。

光の中でセーラが微笑(ほほ)んでいたのを、(まぶ)しさに目をつむる前、マリーはハッキリと見たのです。


かわりに(あらわ)れたクリスを見て、自分の想像(そうぞう)が正しかったのだ、と確信(かくしん)しました。


クリスは2日間、死んだように眠っていましたが、お医者(いしゃ)さまの診断(しんだん)によると「命にかかわることではなく、身体(からだ)回復(かいふく)させているだけ」だそう。そのあいだ、マリーは懸命(けんめい)に看病しました。


そして、たくさん考えました。

考えをとめることができなかった、と言ってもいいでしょう。


ボロボロになったクリスを見ていると、マリーの(むね)には、愛しさがこみ上げてきます。

そんなクリスの頭をなでると、背中をなでてくれたセーラが思い出され、(くる)しくなるのです。




マリーが元気になっても、ずっとセーラは優しいままでした。マリーは、セーラが大好きになっていました。


マリーはクリスが戻ってきたら、自分はどうするつもりなのかがわからなくなり、ずっと悩んでいました。


クリスは命がけで、冬の谷まで行って、『黄金のリンゴ』を探してくれています。

ですが、セーラの想いは、マリーよりもずっと……いいえ、きっと、クリスよりも強いのです。


一度だけ、マリーはセーラにたずねたことがあります。

「あなたは、自分の気持ちをクリスに伝えなくてもいいの?」、と。

セーラはゆっくりと首を横にふり、こう答えました。


「いいえ、マリー様。 伝えない方が、いいのです。 わたしはクリスの幸せを、望んでいるのですから」




クリスが、マリーと話しにお部屋にたずねてきました。領主様は『話せ』と言いましたが、クリスはお別れを告げるために、です。



マリーには嫌われてしまったようだ、とクリスは思っています。だからといって、自分の気持ちがなくなるわけではありません。マリーのことは大好きなままです。


ですが、セーラのことがなによりも大切だったと、クリスは気づいてしまいました。


きっと、マリーの気持ちがクリスにあったとしても、セーラを失っては幸せになれません。


その気持ちに名前をつける必要が、いったいどこにあるのでしょうか。



光の射し込む窓際(まどぎわ)に、マリーは立っていました。

背を向けたまま、こちらを見ようとはしません。


後ろ姿でも、やっぱりとても綺麗だな、とクリスは感じました。


「マリー様、あなたのことを想うと、ボクの胸はとても苦しくて、でもなんだかくすぐったくて。 あなたの笑顔を見ると、とても幸せな気持ちになったのです。 ……どうか、素敵なお婿さんと、幸せになってください」


そう言って、クリスは去り際に、『黄金のリンゴ』をテーブルに置きました。



クリスは夢のなかで、聞くことができなかったはずの、魔女の言葉を聞いていました。すぐには思い出せませんでしたが、セーラのことを聞いてから、なぜか急に思い出したのです。



「『黄金のリンゴ』がほしいなら、持っていけばいいわ。 もっとも、そんなものはすぐに、いらなくなるでしょうけど」



魔女の言うとおりでした。

おそらく魔女は、『黄金のリンゴ』になど、興味(きょうみ)がないのです。


クリスにとって『黄金のリンゴ』はマリーへの想い、です。


想いはすぐに、なくなることはありません。

でも想いを受け取ってもらうことも、受け取ってほしいと思うことも、もうないのです。

想いは置いていけません。でも『黄金のリンゴ』は置いていけます。


『黄金のリンゴ』は価値のあるものですから、マリーの幸せな未来のために、使ってほしい。


そうクリスは思っています。




だけどマリーは、振り向いてテーブルの上の『黄金のリンゴ』をつかむと、それをクリスに乱暴(らんぼう)におしつけたのです。


「いらないわ!」


マリーはとても怒っていました。

どうしてかわからず、クリスはオロオロしてしまいます。



以前(いぜん)、セーラに感じたクリスの面影は『死の覚悟も決めた、ゆるがない気持ち』だったのだ、と、マリーは思っています。


それはひたむきで、とても美しいもの。

マリーはそう思いましたし、今も、そう思っています。


でも今は、同時(どうじ)に『とても自分勝手(じぶんかって)だ』と、思わずにはいられません。


「こんなものをもらって、自分だけ幸せになれだなんて、いったいどうしたらいいの? セーラのしたことは、あなたと同じことよ。 あなたもセーラも自分勝手だわ!」


「マリー様……」


命をかけて、自分のためになにかをしてくれること。その気持ちは嬉しいですが、命はひとつしかないのです。


もし死んでしまったら、なにかをしてもらって残された(がわ)は、どんなにつらいでしょう。


「わたくしは、死ぬわけにはいかないし、(おっと)となる方に、簡単に死んでもらっては困ります。 みんなのくらしを(まも)るのよ。その役目(やくめ)を捨てるような気持ちなんて……ほしくないわ」


そう言って、マリーは『黄金のリンゴ』から手を(はな)しました。


「あなたはあなたの幸せを。 これは、ふたりに」


クリスはなにも言えず、静かに頭を下げました。

そして、『黄金のリンゴ』をリュックに大事にしまうと、再び冬の谷へと向かっていきました。



クリスとセーラが幸せになるには、それぞれが生きて、幸せにならなければなりません。


それを、マリーに教えてもらった。

クリスはそう思っています。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『その気持ちに名前をつける必要が、いったいどこにあるのでしょうか。』 ここ! なぜかぐっときました!
[良い点] クリスもセーラもマリーもいい子だなぁ……。 みんな幸せになってくんねえかなぁ……。
[良い点] 感動で泣いてます……。 これ、童話だけど、童話じゃない。 立派な恋愛小説じゃないですか! こんなに複雑な三者の愛憎。 マリーの「セーラもクリスも身勝手!」という言葉が刺さりました。 誰も悪…
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