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②『冬の魔女と黄金のリンゴ』


冬の谷には冬の魔女(まじょ)が住んでいます。




大昔、そこには冬の国がありました。


冬の国の王様は、冬の魔女の(いか)りをかってしまい、冬の国は(こおり)()もれてしまったので、今はありません。

全部が氷に埋もれたなか、谷だけが(のこ)り、魔女は今もそこに一人で住んでいるそうです。


そんなおそろしい魔女ですが、とても言葉じゃ(あらわ)せないほど、(うつく)しい姿(すがた)をしているそうです。




昔、とはいっても冬の国がなくなったあとでのこと。

この国の王子様のひとりが、『そんなに美しい人なら会ってみたい』と思い、舞踏会(ぶとうかい)招待状(しょうたいじょう)(おく)ってみることにしました。


みんなに『来るはずない』と言われましたが、魔女はきまぐれだ、というので、ものは(ため)しです。

もしかしたら気がむいて、来てくれるかもしれませんものね。



魔女はどうやら気がむいたようで、舞踏会に来てくれました。


この国だけでなく、どんな国の、どんな美しい人よりも、もっともっと美しい魔女。

王子様は一瞬(いっしゅん)(こい)に落ちてしまいました。


王子様はひざまずいて『わたしの(つま)になり、ずっとこの国にいてください』とお(ねが)いしましたが、魔女は聞いてくれません。

ですが、王子様があまりに真剣(しんけん)で、熱心(ねっしん)だったので、魔女も悪い気はしませんでした。


魔女は仕方なく、少しの間だけ、この国にいてあげることにしました。




王子様は魔女といられて幸せでした。


ですが、困ったことになりました。いつまでたっても、この国に春がやってこないのです。


それは、魔女がいるからです。

だって、彼女は冬の魔女なのですから。


もちろん王様は王子様を怒りました。

このままではみんな、()えてしまいます。


王子様は魔女のことが(あきら)められませんでしたが、自分のせいでみんなにひもじい思いをさせるわけにはいきません。


悩んでいる王子様に、魔女は氷のように冷たい視線(しせん)をなげると


「だから言ったじゃないの。 アナタがお願いするから、わたしはいてあげただけよ。 悩むくらいなら帰るわ」


そう言って、さっさと帰ってしまいました。




魔女が帰ると、ふり(つづ)いていた雪が(うそ)のようにやみ、あたたかい陽射(ひざ)しが国中を(つつ)みます。


まちにまった、春の(おとず)れです。


若葉(わかば)芽吹(めぶ)き、鳥が(うた)い、閑散(かんさん)としていた街には人々があふれています。


みんなが待ち(のぞ)んでいた春にうかれるなか、王子様の心だけは、吹雪(ふぶき)の夜のように寒々(さむざむ)しいものでした。


王子様はどうしても魔女のことが忘れられなかったのです。


とうとう王子様は、王様にお願いをしました。


「わたしのかわりに、どうか弟を次の王にしてください」


これには王様も(おどろ)きました。

ですが、(たし)かにみんなを飢えさせずに魔女のそばにずっといるには、魔女のそばに自分が行くしかありません。


王子様は真剣ですが、冬の谷は全てが凍るような寒さです。


王様は王子様の覚悟(かくご)が本物かわからなかったので、『弟王子がもう少し(たよ)りになるようになったら』という条件(じょうけん)をつけることにしました。

旅立つ時間を(おそ)くすることで、決意がゆらぐかもしれない、と思ってのことです。


しかし5年たっても、王子様の心は変わりませんでした。


観念(かんねん)した王様は、可愛(かわい)息子(むすこ)のために、国の宝のひとつである『黄金のリンゴ』と手紙を持たせてあげることにしました。


「これを持っていけば、きっと魔女も(よろこ)んでくれるだろう」


お願いをして、いっしょにいてくれた魔女ですが、帰るときには王子様が悩んでいたのを知っています。

魔女は、自分が冬の魔女だとわかっていて帰るのをとめたくせに、今さら悩む王子様にガッカリしていたに(ちが)いありません。


それは王子様があさはかだったのですが、追いかけると決めたあと、5年もひきとめたのは王様です。

手紙には、王様が5年王子様をひきとめたこと、その5年の間、王子様は片時(かたとき)も魔女のことを(わす)れなかったことなどが書いてあります。


「ありがとうございます」


王子様は涙を流しながら、王様に頭を下げ、魔女の住む冬の谷へと向かいました。




冬の谷はとても寒く、深い雪と氷におおわれています。

白い息を()きながら、王子様は懸命(けんめい)に魔女のもとへと向かったことでしょう。


ですが、他の人が王子様の姿を見たのは谷の手前まで。


その先を知るものは、誰もいないのです。



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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に背景になるストーリーが魅力的ですねー。はてさて。
[良い点] この二話の部分だけで完結しているかのような完成度! さすがは環さんです! それで、ストーリー全体に、クリス達にどう絡むか楽しみです(^^)
[良い点] おもしろーい!! それでそれで??(๑˃̵ᴗ˂̵)って先が気になるー!
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