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Elevator

第1部 第8話  Demon Slayer



 「しかし蒼龍、あの力は凄いな。『超平和バスター』って言ったっけ。あれは一体どうなってるんだ?」

俺の友人、扶桑は気になっていた疑問を口にした。


 俺は何となく天井を見上げ、首を振ると、ゆっくりと重たい口を開いた。

「その名の通り、平和を超えてバスターするのさ。超平和バスター」

その時の扶桑には、俺が何を言っているのかさえわからなかっただろう。超平和バスター。俺はシャルンホルスト・カットのマスターに話を持ちかけた。


 「そんな事より、マスター。奴等はオーナーの名前をナベツネと言った。何か心当たりは無いかい?」

後ろを向いてカップを拭いていたマスターは、その名を聞いて一瞬動きを止めた。


 「ナベツネ……、本当にそういったのかい?」

マスターはそう言ってこちらを振り返った。俺等は首を縦に振った。

「ナベツネは政界の大物とつるんで悪事を働く奴さ。以前にこのタワーが危機に瀕したのも奴の力が大きいって噂だ」


 若宮ちゃんは拳を握り締め、言った。 

「許せないですね。でも、どうしてそんなことをするのかしら?」

皆は首をかしげた。


 気が付くと、マスターは再びカップを拭き始めていた。後ろを向いたまま喋り出す。

「理由はわからない。しかし、このタワーで悪事を働き、このタワーの評判を落とそうとしているのは確かだ。悪いことが続けばすぐにでもタワーは無くなってしまうだろう」

乗っ取り。扶桑の頭にはそんな単語が浮かんだ。しかし何故……。


 俺が場を取り仕切った。

「とにかく、またいつ鬼がやって来るかわからない。どうにかしなくては!」


 神鷹中尉が純粋な子供の目で質問する。

「鬼って一体何者なの?」


 俺は肩を落とし、ため息をつくとこう言った。

「そうか、みんなは鬼がどういう奴か知らないんだったな。実は、鬼というのは……」


 鬼についての解説が終わると、神鷹中尉は爛々と目を輝かせてこう言った。

「私たちは鬼殺隊ってわけね。それなら、私がみんなに呼吸を教えるわ。日本陸軍に伝わる呼吸。名づけて、どうして男はスケベなの呼吸。略して、その名もズバリ『男の呼吸』」


 扶桑は素早く突っ込みを入れた。

「気持ち悪いわ!」


 俺は冷静に尋ねる。

「それで、どんな呼吸なんだ?」


 神鷹中尉は腕組みをして、ニヤッと笑みを浮かべ、こう言った。

「それじゃあ、鍛錬を始めようか」

鍛錬が始まり、翌日、呼吸は実行に移された。


 「蒼龍、綺麗になったなぁ。惚れちゃいそうだよ」

神鷹中尉によって伝授された呼吸によって、俺は女子高生へと変身した。皆が女子高生に扮し、娘をさらうエロ鬼を油断させ、隙を突く呼吸だ。扶桑は俺に見とれているようだ。若宮ちゃんと神鷹中尉のメイクの腕がいいのか、自分でも驚くほどだ。


 神鷹中尉は年齢で言えばおそらく現役の高校生なのだろう、制服が良く似合う。さっきから写真を取りまくっているライダーの気持ちも良くわかる。


 しかし、何といっても若宮ちゃんだ、制服姿の若宮ちゃんは、何と言うか、こうグッと来るものがある。扶桑がその感動に涙を流していると、後ろから声がする。

「ねえ、聞こえないの。次は扶桑くんの番よ!」


 そう、次は扶桑が女子高生になる番だ。扶桑は2人に連れられ、別室へと向かった。


 ついに完成した。余程できが良いのか、2人は何となくニヤついている。扶桑等は、皆が待っているシャルンホルスト・カフェ「いそしぎ」へと向かった。扶桑は、自信満々にドアを開ける。すると、その場に居合わせたマスターや、俺、グナイゼナウ・ライダー。そしてそのほかのお客さんが一斉に振り返る。皆は凍りついた。沈黙が訪れた。静寂の世界だ。なんという素晴らしい世界。


 しかし、次の瞬間、静寂は破られた。洪水だ。いや、違う。これは笑いだ。笑いの洪水だ。皆涙を流して笑っている。


 マスターは笑いながら言った。

「扶桑くん、何だいそれは?」


 扶桑には状況が掴めなかった。みんなは何故笑っているのか。皆が笑っているのが可笑しくて、扶桑も釣られて笑い出した。マスターは続けて言った。

「扶桑君、鏡は見たのかい?」


 鏡、そうだ、扶桑は自分の姿を見ていなかったのだ。扶桑はそのままトイレに向かった。あれはなんだろう。鏡の向こうに浮かんでいるあの像。見ているだけで吐き気が込み上げてくる。扶桑の欠点をすべてさらけ出したような……。扶桑はそれが自分だと気付くのに長い時間を要した。


 扶桑は泣きながらトイレから出ると、神鷹中尉が扶桑の目を見ずにこう言った。

「ゴメンね。一生懸命頑張ったんだけど、どうしてもそうなっちゃうの」

謝りがてら、扶桑を一瞥すると、プッと噴出した。


 酷い。みんな酷過ぎる。扶桑は助け舟を探して、辺りを見回した。すると、ライダーがいる。いるじゃないか。

「ライダー、次は君の番だぞ!」

ライダーは2人とともにしぶしぶ別室へと向かった。


 帰ってきた。ライダーのメイクアップが終了したようだ。「カランカラン」とドアのベルが鳴り、扉が開く。そこに現れたのは……、いつものライダーだ。扶桑は立ち上がって叫んだ。

「卑怯だぞ!」


 ライダーは答える。

「私はヘルメットを脱ぐわけには行かない」


「……」


 「準備もできたことだし、さあ、行くわよ!」

神鷹中尉は気合十分だ。しかし……。


 「行くって、何処へ?」

「……」

俺等は暫くそのままで立ち往生していた。


 「とりあえず、買い物にでも行きましょうか」

神鷹中尉は苦し紛れに提案する。


 扶桑は言った。

「馬鹿馬鹿しい、帰るぞ、僕は!」

そう言って立ち上がると、神鷹中尉がハリセンで殴ってきた。

「もっと女の子らしくしなさい!」

「そんな事言ったってなぁ、蒼龍」

そう言って俺の方を見るので、俺は実に女の子らしくレモンティーを飲みながら、マスターと談笑した。


 仕方無く扶桑はその会話に参加した。鬼を倒すのに必要なのは、そう、鬼滅の刃。


 「ねぇ、マスター。わあ、目が真っ赤だ!」


 マスターはロートこどもソフトを取り出すと、目に刺してくれた。

「しみないだろ?」


 「ありがとう。ところでマスター」


 マスターはロート子どもソフトをドラゴンケースにしまうと、こう言った。

「え、何だって? 聞こえなかったよ。もう2回言ってくれ」


 「せめて次で聞く努力しろよ!!」

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