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Rock The Baby

第1部 第6話  Cardcaptor Sakura



 シャルンホルスト・タワーの朝は早い。職人達は陽の昇る前に起き、築地へ向かう。その日1日に必要な食材を仕入れるのだ。新鮮な食材がシャルンホルストのすべてを左右する。


 俺は、タワーの地下1階にあるシャルンホルスト・カフェ「いそしぎ」にて扶桑と改革論議に花を咲かせていた。 


「こーんにーちわっ」

やって来たのは中学生くらいに見える、木之本桜似の美しい娘だった。


 しかし彼女、ミリタリーマニアなのであろうか、全身を旧日本軍の軍服で固めている。彼女は俺等の前に姿勢良く立つと、敬礼をした。


「お初にお目にかかります。自分は、日本陸軍中尉、神鷹であります。以後お見知りおきを」


 扶桑は適当に相槌をうった。最近この手の輩が多い。まったく最近の若者はどうなっているんだ、とばかりに。扶桑が再び俺と会話を始めようとすると、シャルンホルスト・カットのマスターが店の奥から現れた。

「あれ、来てたのか。紹介するよ。私の娘、神鷹陸軍中尉だ。日本陸軍で活躍している」


 扶桑は呆れ、とりあえず浮かんだ疑問を口にした。

「自衛隊の人なのかい?」


 神鷹中尉は眉間に皺を寄せてこう言った。

「自衛隊って何ですか? 自分は偉大な日本陸軍の1兵士であります!」


 扶桑は神鷹中尉に同情しているようだ。折角可愛い顔してるのにもったいない、とでも思っているのだろう。

「大丈夫、絶対、大丈夫だよ」


 ウェイトレス、若宮ちゃんがコーヒーを運んできた。ふと、若宮ちゃんの足元を見ると、おもむろにバナナの皮が落ちていた。一体誰がこんなトラップを仕掛けたんだ。そんなことを考えている内に、案の定、若宮ちゃんはその黄色い悪夢に足をとられてしまった。


 「危ない!」

扶桑がそう叫ぼうとした瞬間は間に合わず、若宮ちゃんは空中へと放り出された。バナナがせせら笑いを浮かべている。コーヒーカップが地面に接触し、ガシャーン、と天を切り裂く雄叫びが鳴り響いた。


 その瞬間だった。神鷹中尉の雄叫びが聞こえる。

「米軍かー!」

バンバンバン。神鷹中尉が鬼の形相で発砲した。扶桑の頬から一筋の赤い液体が流れ落ちる。あと1歩で三途の川を渡る所だった。辺りが静まり返る。


 「ごめんなさい。ちょっとコーヒーを落としてしまって」

若宮ちゃんは子猫のように怯えながら謝った。


 神鷹中尉は我に返った。

「……そう、なら良かったわ。てっきり米軍かと」


 「カランカラン」とベルが鳴り響き、店のドアが開いた。やって来たのはフルフェイスとライダースーツに身を固めたグナイゼナウ・ライダーだった。「ああっ、また余計なのが来た」扶桑がそう思ったのも束の間だった。


 「曲者ー!」

ドカーン。神鷹中尉は手榴弾を投げつけた。


 「何事だ!?」

ライダーも持ち前のバズーカ砲で応戦する。辺りは火の海だ。神鷹中尉は三八式歩兵銃を乱射する。ライダーのナパーム弾が地獄の叫びをあげる。これが戦争か。


 それからしばらく戦いは続いた。神鷹中尉は銃の弾薬を切らしたらしく、98式軍刀を構えて言った。

 「ハアハア、米軍め、中々やるな」


 ライダーも弾切れを起こしたようだ。ランチャーを投げ捨て、呟いた。

「最近の若者はたくましくなったな」

やがて煙が晴れる。ライダーは自分が戦っていた相手を見て、体をこわばらせた。ライダーの脊髄に稲妻が走る。

「な、なんと美しいおなごだ……。主とかじゃなくて、仲良しになってほしいな」


 ライダーは、気がつくと神鷹中尉の唇を奪いに飛びかかっていた。

「僕と結婚してくださーい!」

「いやー!」

ドカーン。早くも第二次大戦の火蓋が切って落とされた。激しい総力戦。地獄は再び繰り返されるのか。


 それからさらに戦いは続いた。戦争はやがて膠着状態に入った。俺が、この戦争のすべてを取り仕切るように言った。

「もう、終わりにしよう。戦いが答えをくれるかい?」

2人は武器を捨て、床に崩れ落ちた。


 「私等は、間違っていたのかもな……」

と、ライダーは言った。


 「そうなのかもしれないわね」

神鷹中尉は言った。ふと、扶桑は若宮ちゃんが気になったのだろう、若宮ちゃんの方を見ると……、若宮ちゃんの目がハートになっていた。若宮ちゃんの目線の先には俺がいる。

「か、カッコいい!」


 それ以来、扶桑は俺とは距離をおいて接するようになった。友情とはかくも脆いものか。


 神鷹中尉は何者なのか。キャプターってのは、捕らえる人って意味だ。


 マスターはきゃらか~んのおまけを棚にしまうと、神鷹中尉と親子水入らずの会話に花を咲かせた。

「久しぶりだな。軍の方はうまく行ってるのか?」


 神鷹中尉は答えた。

「うん、上々だよ」


 マスターはぶしつけな質問をする。

「そうかー。時に、そろそろお前も年頃じゃないか。好きな人とかはいるのか?」


 神鷹中尉は笑いながら答える。

「そんなのいないよ」


 マスターはいつに無く真面目な顔で言った。

「隠さなくったっていいだろ。父さんはすべてお見通しだぞ」


 神鷹中尉は照れながら言った。

「う、うん、いるよ」


 マスターは辺りを見回して叫ぶ。

「おーい、出て来いよー!」


 「ここにはいねーよ!!」

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