Hyper Yo-Yo Official Trick
劇場版 Three Leaf Clover: The Vanished
あの夜、シャルンホルスト・タワーの地下にあるカフェ「いそしぎ」に、普段の喧騒は微塵もなかった。俺はカウンターの椅子に座り、煙草代わりのマリファナの煙を天井に吹き上げながら、誰もいない店を見つめていた。マスターが姿を消したからだ。カウンターには、扶桑がいつものように注文するはずだった冷たいモカのカップが、ぽつんと残されている。第3部第1話で扶桑が飲んで「しょっぱい」って言った、あのモカだ。
「とうとう、始まったわね」
店の隅で、若宮が静かに呟いた。いつものエプロンはしていない。俺と若宮は付き合っている。第3部第8話で扶桑が見ていたように、俺たちは親密な関係になった。これも、この馬鹿げた作戦の副産物だ。俺はマリファナの煙を吸い込み、彼女を見つめた。
若宮が呟くのに呼応するように、店の奥、倉庫の扉がゆっくりと開いた。音を立てずに現れたのは、フルフェイスのグナイゼナウ・ライダーと、俺の親友である扶桑をいつもバカにしている神鷹中尉。二人は俺たちに一瞥もくれず、店の奥へと進む。俺も立ち上がり、彼女たちに続いた。
倉庫の奥は、ただの倉庫じゃない。俺たちが対麻薬の作戦本部だと呼んでいた場所だ。第3部第8話でマスターが言ってた通りだ。膨大な数のモニターと、天井から床へと這い回るコード。
「マスターはどこへ行ったんだ」
俺が訊ねると、神鷹中尉はマスターの電子手帳『ザウルス』を指差した。画面には、何かの暗号めいた文字が羅列されている。
「先に行ったわよ。蒼龍、あなたの知ってる通り、ナベツネ、じゃなくてマスターの旧姓は渡辺。彼は、第3部第5話で私が話した通り、義父が開発した『自民麻薬』のノウハウを間近で見てきた被害者よ。そして、第3部第8話で彼が話した通り、このタワーを悪のタワーにするためのデマを流し、この世界そのものに抗い続けてきた」
ライダーが静かに頷く。ヘルメット越しで表情は見えないが、その声には、深い決意が宿っている。
「奴はもう『湯屋』に入った。ナベツネの影に隠れて世界を牛耳る、財界のトップたちが集う秘密の会合場所だ。第3部第6話で言った通り、資本主義に狂った世界で、奴らは自分たちこそが神だと信じている。まるで『千と千尋の神隠し』の湯婆婆だ。彼らが『豚』のように肥え太った金儲けの頂点よ」
若宮が、マスターが去り際に残した一通の封書を手に取った。古めかしい紙切れが入っている。
「ええ。マスターは、第3部最終回で言う予定の通り、白血病の副作用を逆手に取るつもりなの。財界に麻薬を蔓延させれば、奴らは数年で自滅する。腐ったシステムを根本から破壊するつもりよ。私たちのすべきことは、マスターが作戦を完了するまでの『時間稼ぎ』と、彼の『居場所の特定』だわ」
俺はマリファナを深く吸い込み、頭を揺らした。第3部第3話で俺が言った通り、俺はナベツネの組織にさらわれ、薬漬けにされた。このマリファナは、その依存から逃れるために仕方なく吸っているんだ。この戦いは、俺自身の戦いでもある。
マスターは、俺たちを信頼し、義父が残した麻薬開発の最終データが入った暗号を託していった。それは、この戦いを終わらせるための唯一の鍵だ。
若宮がザウルスの画面を俺に見せる。マスターからのメッセージだ。
「『若宮くん、この作戦は時間との勝負だ。財界の守りは固い。まるで『幽☆遊☆書』の暗黒武術会、勝ち進まないと上には行けない。私は既に、財界の最高責任者である『渡辺婆』の部屋に潜り込んでいる。部屋のパスワードは、私が愛してやまないあの宮沢りえのヘアヌード写真集『Santa Fe』の初版発売日だ。お前ならわかるだろう』だとよ」
神鷹中尉が冷たい目で言った。
「1991年11月13日。あの**宮沢りえのヘアヌード写真集『Santa Fe』**の発売日を覚えていられるなんて、パパは本当に変態だわ。第3部第1話で扶桑がこれを聞いたら、またバカにされると思っただろうな」
若宮が素早く打ち込むと、タワーの構造図が立体的に浮かび上がった。
「マスターは、エレベーターを使わず、緊急用の『メンテナンスダクト』を使ったのね。まるで『スピード』のバス爆弾解除のように、ギリギリの綱渡りだわ」
俺は、神鷹中尉がメンテナンスダクトの位置を特定するのを見つめた。それは、地下から最上階へと一直線に伸びる通路だ。
「俺が行く。第3部第3話で俺が言った通り、俺は一度大事な人を白血病で失っている。この薬の恐ろしさを誰よりも知っている。若宮、お前は『いそしぎ』に残れ。あそこは作戦本部。いざという時のための通信中継基地だ」
若宮は静かに首を振った。俺の隣で、彼女の体温が伝わってくる。
「いいえ、蒼龍さん。私も行きます。第2部第5話で私が言った『予知能力』がある。マスターが今、最も危険な状態にあると告げているのよ」
神鷹中尉は一瞬ためらったが、若宮の真剣な眼差しに押し切られた。
「わかったわ。でも、足手まといになるなよ。私たちには、マリファナ(第3部第3話)による依存からの脱却という、もう一つの戦いがある。薬物中毒患者をこれ以上増やすわけにはいかないんだから」
ライダーは、スーパーカブ90のヘルメットを被ったまま、巨大な工具箱を取り出し、ダクトの入り口を開けた。その中には、ワイヤーとフックが格納されている。まるで『進撃の巨人』の立体機動装置のプロトタイプだ。第2部第9話で、扶桑が立体機動装置なんて知らないって言ってたが、現実に存在したんだ。
「行くぞ!」
ライダーが叫ぶ。
ライダーと神鷹中尉、そして俺たち二人は、薄暗いメンテナンスダクトへと潜り込んだ。ダクトの中は、錆と油の臭いが充満し、まるで『もののけ姫』に出てくる『タタラ場』の煙臭さのようだった。
上昇するにつれて、俺たちの体に異変が起こり始める。ダクトは、タワーの換気システムと直結しており、タワー内で密かに使用されている自民麻薬の微粒子が、換気とともに流れ込んできていたのだ。
「くっ……頭が……」
若宮がうめく。
俺の目の前にも、幻覚が見え始めた。第3部第2話で扶桑が経験した『超平和バスター』の幻覚だ。
幻覚の中の俺は、若宮といつまでも幸せに暮らしている。彼女は俺の隣に座り、まるで放課後ティータイムのように、二人で楽しく過ごしている。
「若宮、お前と出会うことができてよかった。第3部最終回で俺が言う予定の『千歳、見つけたよ、やっと見つけたんだ』ってセリフは、嘘じゃない」
「蒼龍、やめろ!」
ライダーが叫ぶ。
ライダーは、若宮と俺の体に巻き付けたワイヤーを強く引き寄せ、幻覚から引き戻した。俺はハッと我に返る。口の中には、マリファナの甘い香りが残っていた。
「くそっ、これが麻薬による洗脳の力か! 第3部第2話で扶桑が経験した『超平和バスター』も、すべてこの幻覚だったんだ!」
神鷹中尉もまた、幻覚に襲われていた。目の前には、亡き母の幻影が立っている。
「千歳……お前には、立派な父親が必要だ。この世界を、お前のために変えてみせる。私がお前の新しいパパになる」
「違う、パパは第2部第5話で言った通り、婿養子! 私と母を巻き込んだのは、この世界そのものよ! 第3部第5話で話した通り、私の祖父が開発した薬によって、私の母は白血病に倒れた。私は、その悲劇を終わらせるために、この軍服を着ているんだろう!」
神鷹中尉は、涙を流しながらライダーに抱きついた。俺の幻覚と同じように、彼女たちにも、最も心地よい嘘の幻覚が見えているのだ。
ライダーは、神鷹中尉の肩を抱きしめる。
「ああ。第2部第8話でお前が言った通り、私はこのフルフェイスを脱ぐわけにはいかないんだ。お前と許嫁(第1部第3話)の生駒さんとの間で揺れ動く『雷ちゃん』を演じたのも、すべては、お前を財界の麻薬から守るための『演技』だ」
ライダーのヘルメットの奥から、静かな決意の声が響いた。
「俺の里は、第3部第4話で話した通り、自民麻薬の実験台にされた。俺のフルフェイスは、単なる防御ではない。麻薬の微粒子から自分を守り、同時に、第3部第3話で蒼龍が言った白血病の副作用が顔に出るのを隠すためのものだ。俺も、被害者なんだ」
俺たちは、お互いの秘密を共有し、再び上昇を続けた。俺たちの戦いは、『エヴァンゲリオン』のシンクロ率のように、お互いの心を一つにすることで、幻覚を打ち破る力を得ていた。
最上階の床に辿り着いた俺たちは、ダクトから静かに這い出した。そこは、想像を絶する豪華絢爛な空間だった。大理石の床、金色の装飾、そして壁一面に、日本中の政治家、財界人、そしてメディアのトップたちが、まるで『カードキャプターさくら』のクロウカードのように、一人残らず描かれた絵画が飾られていた。
「なんて趣味の悪い……」
若宮が吐き捨てる。
「これが、彼らが自分たちを神だと見做している証拠よ。この上には、マスターの義父が開発した自民麻薬の最終散布装置が隠されているはずだわ」
神鷹中尉が銃を構える。
その時、背後の扉が開いた。そこに立っていたのは、生駒と赤鬼の二人だ。
「遅かったわね、雷ちゃん」
生駒が言う。彼女は、第3部第7話で履いていた網タイツの下に、くないを隠し持っている。
「どうしてここに……」
ライダーが驚きの声を上げる。
「マスターから、手紙が来てたんだ。『私が義父の薬のノウハウを完成させるまで、湯屋の守護神になってほしい』とね。もちろん、ナベツネに雇われたわけじゃない。第3部第7話で生駒さんが言ってた通りだ。これは、俺の戦いだ」
赤鬼は、生駒をそっと背後に庇う。
「赤鬼さん……」
生駒は、赤鬼に寄り添った。
「私も一緒に戦う。第3部第9話でライダーが言ってた通り、私は許嫁という古いしきたりから解放されて、赤鬼さんと新しい人生を歩むのよ」
「わかった。みんなでマスターを守り、この戦いを終わらせる。あの男には、私たちにマリファナを勧めたり、第3部第4話で俺を裏切ったりしたことの、本当の意味を教えてもらわなくちゃならない」
ライダーはヘルメット越しに、強く頷いた。
彼らがそう決意した瞬間、部屋の奥から、邪悪な笑い声が響いた。
「ふふふ……遅かったな。もう、すべて終わったぞ!」
マスターがいた。しかし、彼の姿は、第3部第6話で俺が説明した通り、第2部第1話で扶桑が『鬼』だと勘違いした、赤い顔、赤い角を持つ、異形の姿に変わり果てていた。彼の手には、ガラス製の美しい注射器が握られている。中には、自民麻薬の原液が入っていた。
「マスター!」
若宮が叫ぶ。
「心配ないさ、若宮。これは、私の義父の薬の副作用だ。私の体に流れる白血病の因子が、薬を打つことで一時的に、鬼の姿を作り出しているだけ。第3部第6話で俺が言った通り、あれは薬の副作用なんだ。私は、この薬の力を利用し、財界中に自民麻薬を蔓延させた。これで、第3部最終回で言った通り、資本主義に狂った世界は、根底から崩壊する!」
マスターは、自らを『鬼』に変えることで、麻薬の力を最大限に引き出し、最終兵器を起動させたのだ。まるで『AKIRA』の鉄雄が、その超能力で崩壊していくかのようだった。
「マスター、第3部第3話で俺が言った通り、お前、自分まで……大事な人を失った悲劇を繰り返すつもりか」
マスターは、若宮の父、若宮の愛する人が、麻薬の副作用で命を落としたことを知っていた。その悲劇を二度と起こさないために、彼は『湯屋』の支配人となり、自ら悪役『ナベツネ』を演じ、そして今、自らを鬼に変えた。
「若宮。君に第3部第7話で尻を触ればわかると言ったのは、君が麻薬によって洗脳されていない、真の人間であることを確認したかったからだ。君には、秘密なんてない。第3部第7話で俺が若宮ちゃんに言った通りだ。純粋で、この戦いに巻き込まれた唯一の一般人だからだ!」
マスターは、力を振り絞り、最上階の窓を破壊した。外は、激しい嵐だ。
「さあ、これで、第3部最終回で言う予定の、ダンゴ大白血病の幕開けだ! みんな、第2部最終回で扶桑が言ったように、ゼロからこの世界をやり直すんだ!」
彼が仕掛けた麻薬の散布装置は、財界の集うビル群へと、自民麻薬の微粒子を乗せた嵐を送り出した。
若宮は、マスターが消えた窓の外を見つめ、涙を流す。
「マスター……第3部最終回で扶桑が言う予定の通り、私には、あなたと出会ったことが、大きな意味があった」
神鷹中尉は静かに言った。
「パパは、世界のために、私たちみんなの嘘を本当にしてくれた。第3部第2話でマスターが言ってたセリフが、まさかこういう意味だったなんてね」
ライダーはヘルメットを外し、白い包帯が巻かれた顔で、静かに言った。
「これで、俺たちの戦いは終わった。あとは、新しい世界を、俺たちが第2部最終回で扶桑が言ったように作り上げるだけだ」
生駒は赤鬼と手を取り合い、頷いた。
「ええ。第2部最終回で扶桑が言ったように、これからは、誰もが幸せになれる世界を。私たちの本当の冒険が始まるのよ」
俺たちの戦いは、この夜、ひっそりと終わった。扶桑が知らない間に、世界は静かに、そして劇的に、終焉を迎えたのだ。
翌朝。俺はいつものようにカフェ「いそしぎ」のカウンターに座っていた。マスターは、もういない。若宮は掃除をしながら、俺にモカを差し出した。扶桑は、第3部第1話で言っていたように、いつものようにモカを啜る。
「マスター、今日のモカは、なんだかしょっぱいね」
扶桑は、冷めたモカを啜る。彼のモカには、まだ微量の麻薬が入っていた。扶桑には、第3部最終回で彼が言ったように、毎日がお祭りみたいでとても楽しい世界が、続くのだ。
若宮は掃除をしながら、静かに微笑んだ。俺も、煙草代わりのマリファナの煙を吹き上げながら、小さく頷いた。
その瞬間、カウンターの奥、倉庫の扉がわずかに開いた。誰もいなかったはずのその暗がりから、聞き慣れた、少し枯れた声が響いた。
「蒼龍、私のモカは、もうしばらく待ってくれ。第3部第1話で扶桑が言った通り、お前が飲むコーヒーは、未来を味わうコーヒーなんだ。私がいなくて寂しがっている扶桑くんのために、これからも美味しいモカを淹れなくちゃならない。私の冒険は、第3部最終回で私が言う予定の通り、これからだ」
若宮は目を見開き、そして深く頷いた。マスターは、俺たちに真実を隠し、物語を続けさせているんだ。
(マスター、ありがとう。俺たちの冒険は、第3部最終回でマスターが言う予定の通り、これから始まるんだ)
- 劇場版 完 -




