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Shoot The Moon

第3部 第9話  Sword Art Online


 

 俺等にはやらなくちゃいけないことがある。扶桑にもそれはわかった。ナベツネを止めなくちゃいけない。麻薬によるコントロールを止めなくては。アインクラ……ではなく、シャルンホルスト・タワーの平和のために、俺等は戦うんだ。


 思いをひとつにした俺等は、カフェ「いそしぎ」にて作戦会議を開いた。参加しているメンバーを確認する。俺と若宮ちゃんはそこにいないが、扶桑にとってこの際どうでもよかった。


 物々しい雰囲気が充満している。誰かが話をはじめなければただ時間を浪費するのみだ。意を決して、扶桑は口火を切った。

「いったいナベツネはどこにいるんだろう?」


 扶桑の右隣りに座っていた神鷹中尉が、そのセリフに呼応するようにうなずき、言う。

「住所がわからないことにはねえ」


 その右隣に座っていた生駒さんが、そのセリフに呼応するようにうなずき、言う。

「情報がなさすぎるのよね」


 その右隣に座っていたグナイゼナウ・ライダーが、そのセリフに呼応するようにうなずき、言う。

「ハローページで調べてみればいいんじゃないのか」


 一周回ってその右隣に座っていた扶桑が、そのセリフに呼応するようにうなずき、言う。

「あるわけないだろう」


 扶桑の右隣りに座っていた神鷹中尉が、そのセリフに呼応するようにうなずき、言う。

「さすがにねえ」


 その右隣に座っていた生駒さんが、そのセリフに呼応するようにうなずき、言う。

「いくらなんでもねえ」


 その右隣に座っていたライダーが、そのセリフに呼応するようにうなずき、言う。

「あった!」


 一周回ってその右隣に座っていた扶桑が、そのセリフに呼応するようにうなずき、言う。

「あるのかよ!」


 扶桑のそのセリフが、戦局を大きく変えたようだった。


 会話の順番を飛び越え、ライダーは、扶桑に向かって言った。

「行くぞ!」

 

 扶桑とライダーは、タワーの地下駐車場へ早足で降り立った。何処からか出てきたタンデム用のちょっと臭うヘルメットをかぶらされ、ライダーの愛機、スーパーカブ90のタンデムシート(というか荷台)に座る。


 「行くぞ!」

という掛け声とともにマシンは発進した。重力を感じる。ライダーは40キロ制限をしっかり守り、大通りを駆け抜けた。第1部第1話を彷彿とさせる。


 マシンはホテル街にさしかかる。ただ通るだけだ。扶桑には縁のない場所だが、扶桑はなんだかそわそわしてしまう。


 そんなことを考えながらあたりを見回すと、遠くに知った顔が見えた。あれは、若宮ちゃんだ。おーい、若宮ちゃーん、と扶桑が声をかけようとした矢先、隣にもう一人、人影があることに扶桑は気付いた。


 それは俺だ。扶桑が「おーい、蒼龍―」と声をかけようとした矢先、ここに俺等がいることの意味を悟ったようだ。俺等は手を取り合い、いかがわしい建物に入っていく。


 扶桑はその様子をただ黙って見ていた。扶桑は声を出すことができなかった。扶桑は、見たものを現実ではないと思うことにした。あれはバーチャル的な何かだ。ソードアート的な何かだ。はたしてこのシーンは必要だったのか。アスナの部屋で一夜を過ごすシーンは。GTAみたいに問題になるんじゃないのか。


 ライダーは扶桑に言った。

「いい加減、あきらめろ」

マシンが加速し、2人の入った建物が見えなくなる。


 扶桑は言った。

「自分が幸せだからって、そんなことを言わなくてもいいじゃないか!」


 扶桑は不幸の星に生まれたのだろうか。もしかしたら、ラッキーマンに変身できるかもしれない。宇宙船の下敷きになって死んでしまうことがあれば……なんかラッキーマンってなろう転生みたいだな。


 扶桑は言った。

「大体、生駒さんはどうするんだよ?」

夜風が冷たい。


 ライダーは言った。

「彼女は許嫁というものに縛られていただけだ。本当は、別に好きな人ができたらしい」


 扶桑は言った。

「え、それは僕のことかな?」


 ライダーは呆れたように言い放つ。

「違う。相手は赤鬼だ。もう、2人は付き合ってるらしいぞ」


 扶桑はまたひとつ、衝撃の事実を知った。最近こんなことばかりだ。


 ブレーキの音とともにマシンが停車する。ライダーは言った。

「着いたぜ、親分」


 辺りを見回すと、そこはタワー前の広場だった。子どもたちがハッピーセットでもらったであろう、ドナルドとハンバーグラーの人形で遊んでいる。扶桑は言った。

「ここかよ!」


 扶桑は思わずライダーの背中を叩いた。ライダーは言った。

「ここの地下のようだな」


 地下に向かい、扶桑がドアを開けると「カランカラン」とベルの音が響き渡る。店内のBGMはシックスペンス・ノン・ザ・リッチャーだ。


 「やあ、いらっしゃい」

シャルンホルスト・カットのマスターが言った。


 扶桑はマスターに問う。

「マスター、ナベツネの住所がここになってるけど、どういうこと?」


 マスターは言った。

「ナベツネ、それ僕のことだよ!」


 扶桑は言った。

「魔女の宅急便かよ! てかお前なのかよー!!」

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