Side Winder
第3部 第4話 Gintama
「ねえ、ライダー。君だけは僕の見方だよね?」
扶桑は、親友だと思っていた俺に裏切られ、長いことお世話になったシャルンホルスト・カットのマスターにも裏切られた。扶桑が信用できる人は、もうグナイゼナウ・ライダーしかいないんだ。素性も素顔すらもわからないけれど、それでも今はライダーだけが味方なんだ。万事屋みたいな存在。
「どうしたんだ、急に。気持ち悪いなあ」
銀のフルフェイス越しで表情は見えないが、きっとさわやかな笑顔でそう答えてくれた。表情は見えなくても、魂を感じる。銀……魂……。
なんだろう、実はすごく美形なんじゃないかとすら思えてくる。神鷹中尉ともうまくやれてるみたいだし、その可能性は低くないのかもしれない。銀さんみたいにふざけているようで、本当は英雄なのかもしれない。声も杉田っぽい。
「ねえ、ライダー。海が見たいな。連れてってよ」
優しくしてくれるライダーに、とことんまで甘えてしまう扶桑がいた。
扶桑は、何処からか出てきたタンデム用のちょっと臭うヘルメットをかぶり、ライダーの愛機、スーパーカブ90のタンデムシート(というか荷台)に無理矢理座った。
「仕方のないやつだな」
ライダーはアクセルをふかした。
やはりライダーは優しい。思わずいつもより強く背中に捕まってしまう。温かい。安心できる背中だ。
「ねえ、ライダー。ライダーにも戦う理由があるの? 攘夷志士だから?」
前にマスターが言っていた何気ない一言が気になっていた。
本当はみんな、ライダーが戦う理由も知っているんだ。もしかしたら、ライダーのことを知らないのも、扶桑だけなのかもしれない。
「それを知ってどうするんだ?」
いや違う、ライダーは余計なことを教えて心配をかけまいと、あえて扶桑には教えていないんだ。これはライダーなりの気遣いなんだ。やっぱりライダーは優しい。
「気になるから。すごく、気になるから」
スーパーカブ90は大きな橋を渡った。吹き付ける風が心地よい。外気は心なしか冷たいが、ライダーの背中が温かいから寒さは気にならない。
「近くのコンビニの前でたむろしていた若者も、ディスコにいた若者も、みんな自民麻薬に毒されていたんだ」
ライダーの不可解な行動にも意味があった。
そうだよね。無意味な殺生を行うはずがないもの。ライダーはいい人だから。ああ、ライダーにも裏切られたなあ。やっぱりみんなひみつを抱えてるんだ。扶桑にもなにかひみつ、あったかな。
「自民麻薬はなぜか、法律上麻薬に指定されていない。だから違法ではないんだ。警察は取り締まらない。ほら、着いたぞ」
いつのまにか、扶桑たちは海に到着していた。
夕暮れの、美しい海だ。こんなに大きな海を見ていると、扶桑は自分の悩みがちっぽけなものに思えてくる。扶桑たちは海風に吹かれながら、ただ砂浜に寄せては返す波を眺めていた。
ライダーは法では裁くことができない悪を裁いていたんだ。ライダーはとことんまで正義だった。もしかしてライダーは悪人なんじゃないかと思ったこともあったが、それはひみつだ。あ、扶桑にもあったじゃないか。ひみつ。
「泣いているのか?」
どうやら扶桑の涙腺は弱くなっているようだった。
「いや、潮が目に染みただけさ」
扶桑等は「いそしぎ」に帰ってくると、皆でぐらぐらゲームをしながら話の続きを聞いた。特に、ライダーのいるところには生駒さんという人ありだ。生駒さん、神鷹中尉、扶桑。ライダーはモテモテだなあ。
「俺の生まれた村は、戦争中、自民麻薬の実験に使われたんだ。伊賀の忍者を操れば戦力になるからな。俺はなんとしても、その復讐をしなくちゃならない。だから俺は村を飛び出したんだ」
ライダーが村を飛び出したことにも理由があった。生駒さんという人を置いてでも、なさねばならないことがあったのだ。
でも、あれ。
「キツイ修行に耐えかねたって言ってなかったっけ?」
本当にそうだったらかっこ悪い。本当はカッコいいライダーだから、そんなわけないよな。
「私はほんとにそうだと思ってた」
しかし、生駒さんはケロッとした顔で言った。
「生駒さんはほんとにライダーのこと好きなの!? ねえ!?」




