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Double Or Nothing

第3部 第3話  Angel Beats!



 いつものようなうらぶれた午後。俺の友人、扶桑は閑散とした「いそしぎ」の店内でコーヒーを啜る。若宮ちゃんはいつものように掃除をしている。扶桑がやってくると、若宮ちゃんはいつも掃除をしている。まるで「話しかけないで」と言わんばかりに。


 遠くの席では、グナイゼナウ・ライダーと神鷹中尉がなにやらいちゃついているようだ。そんなことを知らない扶桑は、いつの間にこんなに仲良くなったのだろう、といった感想を持っていることだろう。ライダーは神鷹中尉に嫌われていたようにも見えたが。生駒さんというものがありながら。


 扶桑は、自分にとっての天使、立華か……ではなく若宮ちゃんとうまくいく予兆なんじゃないのか、と思った。よし、勇気を持って話しかけるのだ。大事なのはビートだ。


 そんなことを考えていると、ドアに取り付けられたベルが鳴った。扶桑は覚えのある気配を感じ、背中を引きつらせた。


 「やはりここにいたか」


 回転する椅子ごと振り返り、扶桑は固唾を呑んだ。そこにいたのは、当然俺、蒼龍だ。蒼龍王に、俺はなる。若宮ちゃんが心なしか笑顔になったような気がした。


 「蒼龍には聞きたいことがたくさんあるよ」

扶桑は額に汗を浮かべながら言った。


 ライダーが神鷹中尉にケーキを食べさせている光景が視界に入る。あれはアーンというやつだ。


 「俺たちは死んだ世界戦線の仲間だからな。そして君は言わないとわからない」

俺は、扶桑の隣に座る。


 「むしろなんでみんなは言わなくてもわかるの?」

取り合えず、扶桑は差し障りの無い質問をする。


 神鷹中尉はずいぶん楽しそうじゃないか。


 「みんな、何がしかで関わっているからな」

俺はマリファナをくわえて言った。


 「蒼龍、君と自民麻薬の関係について教えてくれ!」

扶桑は恥を忍んで疑問を口にした。


 俺は何となく天井を見上げ、首を振り、ゆっくりと重たい口を開いた。

「このマリファナは、自民麻薬のフィードバックから逃れるために、仕方なく吸っているのさ。自民麻薬の依存から逃れるためにはほかの薬に頼るしかない。ハシシみたいな大麻樹脂でもいい」


 俺はいつものようにマリファナを勧める。第2部第9話で増田の息子が投げたのもハシシだ。

「そんな理由があったのか。僕にマリファナを勧めるのもそれで」

扶桑は迷ったが、やはりマリファナは断った。


 神鷹中尉がライダーの肩をもみ始めた気配がする。


 「ある日俺は、ナベツネの組織にさらわれ、薬漬けにされたんだ」

俺は不敵な笑みを浮かべる。


 「過去の話を聞くのは初めてな気がするよ」

扶桑は煙草に火をつける。


 ライダーが気味の悪い声を出しているのが聞こえる。


 「その組織の中で、いろいろな情報を得た。この薬は白血病になるリスクを抱えているんだ」

美味そうにマリファナを吸う。今の俺にはマリファナを吸うことは当たり前のことなのだ。扶桑が煙草を吸うように。


 「死と隣りあわせだったのか」

扶桑は口をぽかんと開けていた。不思議そうな顔でこちらを見る。


 ライダーと神鷹中尉が一緒に分厚い雑誌を読んでいる。あれは、結婚を決めたカップルが読む雑誌じゃないのか。扶桑は俺に視線を戻す。


 「昔、この薬のせいで大事な人を失った。その出来事をきっかけにして、すべてを知ってしまったんだ。だから、絶対に自民麻薬は根絶しなくてはならない」


 大事な人を、白血病で。第2部第3話あたりでの話だ。扶桑は暑くも無いのに汗をかいている。シャルンホルスト・カットのマスターはNCAAを飲んでいる。


 「それで、それで蒼龍は戦っていたのか」

扶桑はトイレに立った。扶桑は何も知らなかった。それが良いことなのか、悪いことなのかはわからない。過去は変えられないのだ。


 扶桑がトイレから帰って来る前に、俺はその場を立ち去った。


 しかたなく扶桑はマスターに話しかけた。

「マスター、僕は何も知らなかったよ」

いつの間にかコーヒーは冷めてしまっていた。


 「ああ、神鷹中尉とライダーのことかい?」

マスターは答える。


 扶桑は驚いた。そういうこともあるというのか、と言わんばかりに。


 「いや、そっちはまだ知らないことにさせてくれ」


 「じゃあ、田代まさしがCMやってるぬ~ぼ~の話?」


 「おいしいよね。いや、というかマスターは神鷹中尉の父親だよね。もうごあいさつもすませてるのか?」

扶桑はもう何も知らないことを生きざまにしようかと思った。


 「扶桑くんはこれからもっとたくさんの事実を知ることになるんだよ」

マスターは腹を抱えて言った。


「人をバカにしすぎだろ!!」

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