Magic
第3部 第2話 My Youth Romantic Comedy Is Wrong, As I Expected
シャルンホルスト・タワーの朝は早い。職人達は築地で仕入れた食材を手早く仕込む。その日1日に提供する分を予測し、季節に合わせた仕込みを行うのだ。手早い仕込みがシャルンホルストのすべてを左右する。
俺等はいつものように、タワーの地下1階にあるカフェ「いそしぎ」にて改革論議に花を咲かせていた。これも奉仕部の活動の一環だ。
「また自民麻薬の被害が出たようだ」
俺は神妙な面持ちでそう言った。
皆が頷く。扶桑は理解できないようだが、とりあえず皆に併せて頷く。頷いたはいいが、やはり何のことかわからない。
「自民麻薬ってなに?」
扶桑がそう質問すると、皆が思いのほか冷たい視線を向ける。凍らせようとでもいうかのようだ。扶桑は暖を取るべく手持ちのMAXコーヒーをすすった。
「あんた、少しは空気読んでよね」
神鷹中尉まで扶桑を馬鹿にする。
「まさか、本当に気付いていないとはな」
俺は真面目な顔で言った。
扶桑はさらに浮かんだ疑問をそのまま口にする。扶桑は分かってもらいたいんじゃない。分かりたいのだ。
「どういうことなの?」
俺は瞳から光を消した。
「自民麻薬さ」
俺はマリファナを勧めた。
「そのマリファナが関係あるのかい?」
扶桑が更に質問で返すと、皆は諦めた様子で、扶桑を会話から排除した。
扶桑がうちふしていると、何処からとも無く声が聞こえてきた。シャルンホルスト・カットのマスターが救いの手を差し伸べたのだ。
「やっはろ~☆ 扶桑くん、辛い話になるけど、良いのかい?」
扶桑は答える。過去の自分や今の自分を肯定してやれないようだ。
「構わないさ」
マスターは落ちついた口調で語り始めた。
「自民麻薬。今その被害がどんどん拡大しているんだ。益田が飲んでいた、あの薬が自民麻薬だよ」
第2部第9話で益田と扶桑が鼻から飲んだ、あれか。
マスターは続ける。
「君が飲んでいるモカにも入ってる。だから未来を味わうコーヒーってわけさ」
扶桑には、マスターが何を言っているのかわからなかった。たった一言ですまされちゃたまらない。大体言葉なんかじゃ上手く伝わらない。
「君たちが『超平和バスター』と呼んでいる現象。あれこそが自民麻薬の幻覚症状だ」
扶桑にはますますマスターが何を言っているのかわからない。もしかしてマスターは口説いてるのか。ごめんなさい無理です。扶桑には好きな人がいるので。
「あれはすべて幻覚だったの?」
目の前に起きていたと思っていた事が、すべて事実ではなかったとしたら、もう何を信じて生きていけばいいのかわからない。
そんな懸念をも認めないとでも言わんばかりに、マスターは笑いながら言った。
「そうだよ。手をかざすだけで岩を破壊できるなんて、可笑しいだろう?」
そんなに笑われても、内容が衝撃的過ぎて扶桑は受け止めきれない。
「じゃあ、益田が使っていたあの電気の玉は?」
扶桑がそう言った時、俺は何かを考えていた。
「あれは本当の電気の玉さ。さわるとビリビリする。鬼の間で流行ってるんだ」
あの時は雷が落ちたように見えた気がするが、幻覚だったのか。
「あの日は天気が悪かったからな」
なるほど、たまたまあの時近くに雷が落ちたということか。そういうことなのか。
「麻薬ってマヤコンと似ているだろう? テクマクマヤコンのマヤコン」
マスターは、笑いながら言った。そんな冗談のように言われても、いつのまにか自分がヤク中にされていた事実を笑い飛ばすのは難しい。第二土曜日が学校休みになることくらい衝撃だ。
「ひみつのアッコちゃんのように変身できる薬なのさ」
だから俺は、第1部第8話でも、第2部第8話でも、あんなに綺麗に女装できたんだ。
「扶桑くんはなんでも信じるんだなあ」
優しいマスターが一番扶桑をバカにしているように見える。味方のようだったのに。
「自民麻薬は戦争の際に開発されたものが元になってる。それをナベツネが悪事利用しているってわけさ」
俺はいつものように淡々とした口調で言った。
マスターがそれに続く。
「知らなかったのは扶桑くんだけなんじゃないかなあ。グナイゼナウ・ライダーがなぜ戦っているかも、神鷹中尉がなぜ陸軍の格好をしているかも」
おかしい。自民麻薬のひみつを知った衝撃でも大きいのに、さらに重大な情報が2つも追加された。これは一体どういうことだ。扶桑の脳味噌がねじれる。やはりこんなの間違っている。
「聞いてないよぉ。じゃあ、マスターがシャルンホルスト・カットなのも?」
扶桑は地面を叩いて言った。
マスターは諦めたように、顔の美的レベルを25パーセントアップした。
「それは関係ない!」
マスターの顔は戻らない。どうやら本当のようだ。
「関係ないのかよ!!」




