Loop The Loop
第2部 最終回スペシャル Re:ZERO -Starting Life in Another World
俺の友人である扶桑は、いつの間にか心地よい世界にいた。ここはどこなんだろう。なんだか疲れたなあ。ずっとこのままでいたいや。良い匂いがする。暖かいなあ。このまま眠ってしまおうか。そうしよう。扶桑がそう思った瞬間だった。どこからか、扶桑の名を呼ぶ声が聞こえる。
「扶桑、扶桑!」
この声は……、若宮ちゃんだ。そうだ、扶桑は一体何をやってるんだ。
「あなたに精霊の祝福がありますように、扶桑」
扶桑が目を開くと、若宮ちゃんが涙目に扶桑の名前を呼んでいた。
「もう大丈夫だ。結局は生ある限りは精一杯あがくしかないってことか」
扶桑はそう言って、雨に濡れた若宮ちゃんの肩を抱きしめた。
激しい音が鳴り響くのを聞いて、見回すと皆が益田と戦っていた。しかし、ライダーのロケットも、神鷹中尉の手榴弾も益田には効かない。生駒さんの忍術も効果がないようだ。俺でさえ、大きく苦戦している。
扶桑は手にした棒状の物を杖代わりにして、よろよろと立ち上がった。
「扶桑、無茶だよ」
若宮ちゃんのその言葉に、扶桑は笑ってこう言った。
「大丈夫。安心して見ててくれ。まだ、牙は折れていない」
扶桑は益田の方へと歩み寄った。
「諦めるのは似合わねぇ! 僕も、お前も、誰にでも!」
皆が扶桑を見つめる。益田は扶桑を睨むとこう言った。
「ほう、こいつを喰らって立ち上がった奴はお前がはじめてだよ!」
再び益田の手のひらに雷が落ちる。
「しかし無駄だ。今日、この時間にこの場所を選んだのはこの雷のためなのだからな。これでとどめだ!」
再びあの電気の球が扶桑に向かって飛んで行く。扶桑は、いつの間にか構えをとっていた。この感覚、身に覚えがある。雷の球が扶桑に近づくにつれ、扶桑はすべてを理解していた。
「僕は甲子園に行くんだあぁ!」
扶桑の魂のフルスイングは、的確に雷の球の芯を捕らえた。間違いなくホームランだ。
「お前の球は見切った。ここから始めよう。1から、いや、ゼロから!」
扶桑は、トランス状態のまま益田めがけて突っ込んで行った。扶桑は、そのまま益田を袋叩きにした。益田が子どものように感じる。
「……どうした。とどめをさせよ」
益田は体を大の字に広げて言った。
扶桑はため息をついて言い返した。
「それはできない。お前は悪い奴じゃない。悪いのはすべてナベツネだ。ナベツネとは縁を切れ」
益田は空に浮かぶ雷雲を見つめた。
「それはできないんだ。ナベツネ様は絶対だ。裏切り物には1か月のトイレ掃除が課される。それに、俺はあいつを養っていかなくちゃならないしな」
そう言って泣きじゃくる子どもを見た。
「……そうか。残念だ」
扶桑は振り返り、皆の方へ歩き、そのまま再び意識を失った。このまま命を落とすのだろうか。異世界に転生するのだろうか。
「……おい、扶桑、扶桑!」
皆の声で、扶桑は目を覚ました。
「よかった。薬を……超平和バスターしすぎると命にかかわるからな」
俺が言う。扶桑は起き上がって、辺りを見回した。
「益田、益田は!?」
扶桑の質問に生駒さんが答える。
「あいつは帰ったわ。これで、このタワーにも再び平和が訪れたのよ!」
神鷹中尉が扶桑を褒め称える。
「凄いじゃないか、扶桑!」
ライダーもまた同様だ。
「まさか扶桑がここまでやるとはな。見直したよ!」
若宮ちゃんも、扶桑を褒めてくれる。
「扶桑さん、格好良かったです!」
若宮ちゃん……。命がけで戦い抜いて、その報酬が彼女の言葉が一つ。扶桑はその言葉だけで、この戦いにも大きな意味があったように思えた。
扶桑が喜びに浸っていたので、俺はこう言った。
「しかし、こんなもので奴を倒すとはな」
「えっ!?」
扶桑が右手に握り締めていた物をみると、それは……便所のカッポンだった。
- 第2部 完 -




