Stop & Dash
第2部 第8話 STEINS;GATE
「カララン」とベルの音が鳴り響き、急に扉が開くと、息を切らせた生駒さんが入ってきた。
「凄い作戦を思いついたわ。オペレーション・ベルダンディよ」
そういって生駒さんは懐から巻物を取り出した。
「どれどれ……」
俺等は、巻物に書かれた作戦内容に目を通した。
「うん、よい作戦ね」
神鷹中尉は暫くそれを眺め、頷いた。
「やってみましょうよ」
若宮ちゃんも乗り気である。
しかし、俺の友人、扶桑はその作戦には賛同しかねた。
「前にもこんなのあった気がしないか?」
おそらく第1部第8話あたりで、こんなことがあった。扶桑はタイムリープして、その事実を抹消したいくらいだった。バタフライ効果で、世界がどうなってしまおうとも。だが皆、扶桑の反対には顔を背けた。
暫くした後、まゆしぃのようなセーラー服に身を包んだ一同が集結した。
「やっぱり、おとり作戦よね。女好きに鉄拳制裁を」
神鷹中尉が誇らしげに言う。神鷹中尉のセーラー服姿は本当にかわらしい。隣の若宮ちゃんのセーラー服姿も、素晴らしいの一言に尽きる。
「そうでしょう」
と、生駒さんが言う。生駒さんのセーラー服姿も、古風な女学生を彷彿とさせ、胸にグッと来るものがある。
「それで、お前はどこの変質者なんだ」
俺は扶桑に向かって冷たい一言を浴びせる。どう見てもアイドルのようにしか見えない俺と違い、扶桑はコントの芸人さながらだった。
扶桑はグナイゼナウ・ライダーに向かって言った。
「ライダーも参加しろよ」
ライダーは、ため息をつきながら言う。
「言ったろ、私はこいつを脱ぐわけにはいかないんだ」
そう言ってフルフェイスを指差す。
「そうか……」
扶桑等は外に出た。
「ライダーは頑なに素顔を隠しているが、一体何があるって言うんだ?」
扶桑がそう言うと、若宮ちゃんが食いついてきた。
「そうですよね、私もずっと気になっていたんですよ!」
珍しく扶桑と若宮ちゃんの気が合った。扶桑は俺の方を見る。
「なあ、蒼龍」
「いや、別に……」
俺はそっぽを向いた。
「何だよ、冷たいな!」
扶桑は生駒さんを見た。
「何よ。私は雷ちゃんの素顔知ってるもの」
「そうか、写真とか持ってないのか?」
「里に帰れば文人画があると思うけど……」
文人画って。扶桑はため息をついて神鷹中尉に問いかけた。
「神鷹中尉も気になるだろ?」
神鷹中尉はなぜかはにかんだ。
「そ、そうね」
若宮ちゃんがすかさず問う。
「怪しい。何か知ってるでしょ!?」
「そんなんじゃないわよ!」
扶桑と若宮ちゃんはライダーの秘密を探るべく、尾行を開始した。
「いけない、バイクを使われたらおしまいだわ」
若宮ちゃんはそう言うと、ライダーの愛機、スーパーカブ90を土に埋めた。
「酷い……」
「しっ、ライダーが来ますよ」
ライダーは自分のマシンが消えていることに気づいた。
「あれ、おかしいな……。まあ、いいか」
ライダーは歩き出した。ライダーのくせにバイクにこだわりはないのか。
「よし、うまくいったぞ!」
ライダーは暫く歩くと、「つけ麺大王」に入った。
「そうよ、食事の時ならヘルメットを脱ぎますね」
「あの格好で店に入ったら怪しくないか」
ライダーの前に大王ラーメンが運ばれてくる。
「よし、脱げ!」
ライダーは割り箸を割ると、大王ラーメンを食べ始めた。
「あれ!?」
見ると、ライダーはヘルメットの僅かな隙間から麺を啜っていた。
「何でやねん!」
若宮ちゃんは扶桑の頭を叩く。
「痛いよ……」
駅に着くと、ライダーは電車に乗って高級住宅街へと向かった。
「よくあの格好で電車に乗れるな」
駅から程なく歩くと、ライダーは見るからに高級なマンションへと入って行った。
「凄いマンションだな。そういえば、ライダーって本職は何なんだ」
「さあ……?」
扶桑等がマンションに入ると、オートロックが待ち構えていた。
「どうしよう」
扶桑が立ち往生していると、若宮ちゃんが、
「大丈夫ですよ」
と言って、どこからか針金を取り出した。針金を鍵穴に入れ、ちょいちょいっと動かすと、扉が開いた。
「若宮ちゃん、どこでそんな技術を……」
中に入ると、見るからに豪華なロビーがそびえていた。
「しまった、ライダーの部屋がわからない!」
扶桑が立ち往生していると、若宮ちゃんが、
「大丈夫だよ、探知機をつけたから」
と言って、何処からか怪しい機械を取り出した。
「1501号室だってさ。行こ行こ」
若宮ちゃんはスタスタと歩いていく。
「若宮ちゃん……」
「最近の家は、ピッキング対策とやらでややこしい鍵がついてるんだよねぇ」
といいながら、若宮ちゃんは一瞬にして部屋の鍵も開けてしまった。そっと扉を開けると、中にはとりあえず人影は無い。
「行けるね」
若宮ちゃんは遠慮も無くどんどん中に入っていく。急に立ち止まり、こう言った。
「チャンスだよ。ライダーはお風呂に入っているみたい」
「そうか、さすがのライダーも風呂に入るときくらいは……」
扶桑等は浴室に向かった。脱衣所には、服がきちんと畳まれて置いてあった。扶桑等は気付かれないようにそっと風呂の扉を開けた。
鼻歌が聞こえてくる。僅かな隙間から中を覗くと、そこには湯船に浸かるライダーの姿があった。頭部に装着されたヘルメットとともに。
「何でやねん!」
若宮ちゃんは扶桑の頭を叩く。
その声が聞こえてしまったのか、ライダーが扶桑達の存在に気付いてしまったようだ。扶桑等は慌てて逃げ出し、クローゼットに身を隠した。ライダーは浴室から出て、辺りを見回す。
「気のせいか……」
と呟き、再び浴室へと戻って行った。
「危なかった」
扶桑等はベランダに隠れて、ライダーがヘルメットを脱ぐのを待った。しかし、彼は何をするにもヘルメットをしていた。
「いよいよ寝るみたいだぞ」
「そう……」
若宮ちゃんは、あくびをしている。ライダーは、ヘルメットをつけたままベッドに入った。
次の日、いいかげん耐えかねた扶桑等は実力行使に出た。あそこまで頑なに隠されると余計に気になるのが人の心情という物だ。扶桑はライダーを羽交い絞めにする。
「今だ、若宮ちゃん!」
若宮ちゃんは、力ずくでヘルメットを剥ぎ取った。ヘルメットを外したライダーの顔は……包帯でぐるぐる巻きになっていた。
「いやあ、この前の怪我が治らなくてさ」
「ピラミッドに帰れ!!」